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【わたしと、瑞穂スタジアム】vol.1 小西工己(代表取締役社長)「瑞穂に関わるすべての方たちに対して感謝の気持ちでいっぱい」

1311月

施設の老朽化に伴い、来年から建て替え工事が行われるパロマ瑞穂スタジアム。“聖地瑞穂”でのホームゲームは残り2試合となり、お別れの時が近づいてきている。『INSIDE GRAMPUS』では『わたしと、瑞穂スタジアム』と銘打ち、パロマ瑞穂スタジアムと馴染み深いクラブスタッフや関係者を直撃。第1回は代表取締役社長の小西工己に思い出を語ってもらった。


インタビュー・文=INSIDE GRAMPUS編集部




ーパロマ瑞穂スタジアムが建て替えられると聞いた時、率直にどのような感想を持ちましたか?

小西 まずは「寂しいな」と思いました。それと同時に、2026年に愛知県で行われるアジア競技大会に向け、明るい未来が見えたとも思っています。建て替えられることで歴史が終わるわけではありません。新しく生まれ変わった瑞穂が見られるまで、6年の間、少しのお別れですね。


ーグランパスの社長に就任されて、初めてパロマ瑞穂スタジアムを訪れた時のことを覚えていますか?

小西 社長に就任してから最初のホームゲームとなったのは、2017年2月26日に行われた(ファジアーノ)岡山とのホーム初戦でした。冬なのに芝生の緑色がすごくきれいだなという印象を持ちました。永井龍(現サンフレッチェ広島)選手の2得点で2−0の勝利を収めた、記憶に残っている試合の一つです。


ーほかのスタジアムと比較し、パロマ瑞穂スタジアムの良さや特徴は?

小西 1つ目は芝生。きれいな緑色をした芝生は日本屈指のものだと思います。素晴らしい管理が施されていて、選手をしっかりと受け入れてくれています。2つ目は空が広いこと。瑞穂は開放感があって、気持ちがいいですよね。3つ目はアクセスがいいことですね。3つの駅に囲まれていて、電車でのアクセスが抜群です。これら3つの観点から日本でも有数のスタジアムだと思っています。


特に思い出に残っている瑞穂での試合を聞かせてください。

小西 2試合あります。1試合目は2017シーズンの11月26日に行われた(ジェフユナイテッド)千葉とのJ1昇格プレーオフ準決勝です。リーグ3位のグランパスは6位チームとの対戦だったので、引き分け以上で決勝に進出できるルールでした。しかし、0−0で迎えた前半アディショナルタイム、左でのショートコーナーからクロスを上げられると、ボールがラリベイ選手の踵に当たりました。それを武田(洋平)選手が追いかけましたが、追いつけずに失点。ゴールと同時に笛が鳴り、ハーフタイムに突入しました。僕の周りで見ていた方々は、僕に掛ける言葉がないような雰囲気でしたね。まだ試合が終わっていないので、僕も「すみません」とは言えないし、「頑張ります」という言葉も憚られるような雰囲気で、本当に胃が痛かったですよ。私自身、タフな人間だとは思っておりますけど、「胃が痛むというのはこういう感覚なんだ」と。


ただ、胃は痛むけど、頭の中は冷静でした。この1年間が頭の中に浮かんできて、「こんなことをやってきた」、「こんなこともあった」、「こんなことがあったからここまで来られた」というように、すべての試合が走馬灯のように頭に浮かんできました。アウェイでの町田(ゼルビア)戦、アディショナルタイムに(ガブリエル)シャビエル選手がフリーキックを決めて勝ち点3を積み上げたこと。台風の影響で途中中断しながらも4−2で再逆転勝利した瑞穂での(ザスパクサツ)群馬戦。最終節で(カマタマーレ)讃岐に勝利し、(アビスパ)福岡が岡山と引き分けたから3位に浮上できたこと。挙げたらきりがないくらいさまざまなことが起こり、そういったことがすべて頭の中を巡っていきましたね。


「必ず勝つ」、「絶対にやってくれる」という確信はありましたよ。いい選手がそろっており、ここまで努力を重ねてきたから、「後半になにも起こらないわけがない」という確信に近い希望を持っていました。後半に入ると、始まって15分ほどで田口泰士(現千葉)選手が同点ゴールを決めました。あまり楽観してはいけませんが、なぜか「これはもう勝ったな」と思いましたね。そのあとは“瑞穂の神”が降りてきました。武田選手がシモビッチ(現リヴォルノ)選手を目指して蹴ったボールが、ハーフタイムに撒いた水と15ミリほどに刈った芝生の影響もあり、長く伸びたんです。ペナルティーエリア外だったため、相手GKの佐藤(優也)選手は飛び出してヘディングでクリアをしようと思ったはずです。しかし、ボールが滑り、彼がクリアしようと思った時には後ろに逸れてしまい、走りこんでいたシモビッチ選手が無人のゴールに蹴り込みました。あの流れは“瑞穂の神”が味方をしてくれたシーンだと思います。我々はピッチのことをよくわかっているから、シモビッチ選手は「ボールに触れる」と思ってすごい勢いで走ったはずです。グランパスの選手と瑞穂の間で阿吽の呼吸があり、なにかコミュニケーションを取っていたのではないかと思いましたよ。その後はシモビッチ選手が青木(亮太/現大宮アルディージャ)選手との連係でゴールを決め、4−2で勝利して決勝に進出できました。


もう1試合は2018シーズンの最終節。後半にジョー(現コリンチャンス)選手のPK2発でなんとか追いついた2−2の湘南戦です。他会場の結果次第では16位から抜け出せず、J1参入プレーオフに進んでしまう状況でした。あの時も不思議な感覚があり、前年の千葉戦と同じように「このまま終わるわけがない」と。試合終了直後、観客席からは「引き分けたからプレーオフを頑張ってほしい」といった声が聞こえる中、「今日(残留が)決まるだろう。ここは瑞穂なんだから」と信じていました。同時刻キックオフだった他会場の試合も続々と終了し、引き分けで残留を決めるには、(ジュビロ)磐田が負けるという条件しか残っていなかったんです。すると、一部の人たちがざわざわと騒ぎ出しました。それを見て僕は直感で「他会場の結果が動いたのでは」と。「磐田と対戦した川崎(フロンターレ)がやってくれたのでは」という期待を持ち、エレベーターに乗り込みピッチに出ていくと、選手たちが飛び跳ねて喜んでいました。結果的に川崎Fが後半アディショナルタイムに決勝点を挙げて2−1で勝利。グランパスの残留が決まった瞬間でした。あのスタジアムの光景はすごかったですね。


小西社長にとってパロマ瑞穂スタジアムとは?

小西 僕がプレーするわけではありませんが、選手とファミリーの皆さまが一緒になって真剣勝負をする闘いの場だと思っています。加えて、僕にとってはファミリーの皆さまとコミュニケーションを取れる楽しい場所でもあります。広場周辺をウロウロしていると、ファミリーの皆さまが「あっ社長!」、「コニタン」なんて声を掛けてくれるんです。皆さまとコミュニケーションを取ることができるので、とてもありがたく思っています。


新たなパロマ瑞穂スタジアムは2026年に完成予定です。どのようなスタジアムになってほしいですか?

小西 今と同じように、ファミリーの皆さまと一緒になって喜び合えるスタジアムになってほしいと思っています。選手たちが思う存分活躍できるピッチにも期待したいです。今よりもサイズが大きくなると思いますので、より多くのお客さまの歓声が聞けることを楽しみにしています。


パロマ瑞穂スタジアムへの感謝の想いを聞かせてください。

小西 記憶に残る試合を生んでくれたことにとても感謝しています。雰囲気を作り上げてくれるファミリーの皆さまはもちろん、ピッチを管理していただく方、スタジアムの設備を管理していただく方、施設を所有する名古屋市など、瑞穂に関わるすべての方たちに対して感謝の気持ちで一杯です。生まれ変わったスタジアムでも皆さまの力がいかんなく発揮されると思いますので、完成するのをとても楽しみにしています。


グランパスファミリーへのメッセージをお願いします。

小西 皆さまも寂しいと思っていらっしゃるかもしれませんが、生まれ変わるための“休憩期間”だと思ってください。これまで長く使わせていただいたわけですから、瑞穂にも少し休暇をプレゼントしましょう。そして、より素晴らしいスタジアムになって私たちの前に復活してくれることを心待ちにしましょう。