長谷川健太監督
ー連戦の一番厳しいところを乗り越え、一息つけたと思います。システム変更をしながら駆け抜けてきた中で、ここで見直したところなどはありますか?
見直すというよりは、連戦の疲れをなんとか少しでも軽減させたいということに努めました。ただ、抜きすぎてしまって、今まで張り詰めていた部分がだらっとなってしまうのは嫌なので、試合の入りや質が大事になると思っています。
ー中2日でのアウェイ3連戦という厳しい日程を終えて、得られた経験や手応えはいかがでしょうか。
(サンフレッチェ)広島戦は3バック同士(の対戦)で、もちろん可変はしてきますが、大きなミスマッチは生まれづらいです。鹿島(アントラーズ)戦、(FC)東京戦と4バックに慣れているチームと3バックでやるというのは難しさもあったと思いますが、選手たちは我々が言っていることを消化してよく体現してくれました。そういった意味では清水(エスパルス)戦は自信を持って臨めたゲームでしたし、ルヴァンカップの大事な試合で勝利を収めることができてチームにとって大きな自信になったと思います。(ジュビロ)磐田との試合は結果と内容が問われる試合になると思いますので、手応えを本当の意味での自信に変えられるような試合にしていきたいなと思っています。
ー清水戦はメンバーを入れ替えた中で勝利を収めました。各ポジションの人選に幅と厚みが出てきたと思います。
練習を一緒にし出したというところで、河面(旺成)などはケガ等々で練習試合でも起用できなかったですが、練習を数カ月間やってきて、いろいろな選手の特徴であったり、コンディションもある程度わかってきました。試合で使っていかないと実際のパフォーマンスはわからない部分があるので、大事な試合でしたが、期待に応えてくれたというのはチームにとって大きな結果になったと思います。
ーシステムを変えてもやることは変えずにやってきた中で、ここ数試合で3バックに慣れてきた部分もあると思います。やれることが増えてきたという感覚もありますか?
皆さんからのいろいろなご指摘がある中で、やはり重心が後ろになってしまっては、というのは重々わかっています。点を取るためにどうリスクをかけていかなければいけないというのも当然わかっています。ここからはアタッキングサードでのクオリティーや精度というところになるのかなと思っています。その前までは、4バックでも3バックでもある程度やれていた部分はありました。4バックの時は決定機を何度か作ったのですが決めきれない中で、耐えきれずに失点しまうという、少し悪い流れになりつつあったのですが、3バックにしたことで締まった試合をできるようになったと。あとはどうやってゴールを取っていくかがこれからの課題だと思いますので、しっかりと向き合いながら試合に臨んでいきたいと思っています。
ー長谷川監督は最近「練度」という言葉をよく口にしています。それはシステムの熟練度なのか、チームとしての理解度、やろうとしていることを一致させていく力などの意味合いなのか、どのような意味で使っているのでしょうか。
両方です。守り方的に、前も言ったことがありますが、昨シーズンまでの名古屋であれば相手のサイドバックが張り出してきた時に、サイドハーフにサイドバックの選手を使って5枚のような形で守り、攻撃は4枚で攻めるという形が多かった。勝っている時も多かったと思いますが、時間とともに5バックや6バックになってしまうという現象がよくあったと思います。そういう部分の癖ではないですが、それが抜ききれていないので、どうしても人にロックオンしてしまうことが多くて、中間守備からマンマークというように臨機応変に対応するところがまだまだ足りていないというか。シーズン前にも言いましたけど、前監督とは守り方が違うので、そういう守り方にまず慣れてもらわないといけないかなと思っています。ただ、そうはいっても時間はどんどん経ってしまうので、3バックにすることによって今まで同様ロックオンしやすくなるというか、彼らにとっては慣れている守り方に近い状況になるので、やりやすくなるのではないかなと。それでも全部マンマークでやるわけではないので、先ほども言ったように中間から人に、というところをある程度理解してもらって、それをしっかりと試合の中で体現してもらわないと困る。やられてはいないけれども、やられてもおかしくないような試合がここ2,3試合の中でありますので、そういう中でもしっかりと対応できるようにしていかなければいけません。練度という言い方をしていますが、守り方の練度であったり、システム変更による練度であったりとか、両方の意味合いで練度という表現を使っています。システムが変わってもやることは変わらないので、昨シーズンに少し近い形になってはいますが、やることは今シーズンのやることをやってもらわないと困ります。そこはフィードバックをしながら、改善していければと思っています。
ー磐田に所属している遠藤保仁選手とは5年間同じチームで闘いました。戦友や教え子などいろいろな表現の仕方があると思いますが、監督にとって遠藤選手はどんな存在ですか?
戦友みたいなものですね。ヤットがいたから3冠できたと思いますし、5冠も獲れたと思います。彼がいなかったらそういうタイトルは獲れなかったのではないかと思っています。
ー当時は中堅からベテランという選手でした。大ベテランとなった今のプレーと当時ではどのような違いがありますか?
やはり年齢とともにプレーは変わりますが、変わらない部分も当然あります。遠藤本人もまだまだ若い頃と変わっていないという自負があって今もプレーしていると思います。ヤットらしいプレーを1年でも長くJ1の舞台で見せてほしいなと思います。
ー監督はクロスの精度について話すことも度々ありますが、遠藤選手はすでに得点に絡むプレーを見せています。そういった点での警戒はいかがでしょうか。
昨シーズンも遠藤がいなければ磐田はJ1に上がれなかったと思います。今シーズンも監督が変わった中でも中心メンバーとしてプレーしていますので、当然危険な選手の一人だと思っています。
ーフィニッシャーとしては鈴木雄斗選手が得点ランキングの上位に入っていて、特にセットプレーは警戒しなければいけないと思います。
ここ数試合ゼロだから大丈夫だということはないので、引き続き集中力をきらさずにしっかりと対応していかなければいけないと思っています。
ー清水戦後に稲垣祥選手が「最近の若い選手に対してはあまり叱らないようにしている」と話していました。監督が若い選手と接する時に意識していることはありますか?
うーん……今も昔もそんなに変わっていません。当然ですけど、若い選手もしっかりと一選手として扱うということを心掛けています。なので、ダメなところはダメだという話は、ベテランや若手は関係なく話します。若い選手だからなにも話をしなくてもいいだろうということではなく、若い選手とも対面してしっかりと話すようにしています。長くやっていると若い選手もたくさん接していますけど、10年前と若い選手の接し方が変わったかと言えばそういうわけではありません。そのあたりは自分らしくというか、あまり考えずに若い選手と接しています。
ー若者や最近のサッカー選手に変化を感じている部分はありますか?
海外を見ていますね。質問の意図としては人間的に昔とどう変わったのかということをお聞きになりたいのかもしれませんが、今の若い選手はみんな海外を視野に入れているというか、海外にどうやって行くのかを考えて、ある意味Jリーグをステップの場として捉えている部分があると思います。昔は早く試合に出て、代表選手になって、そこから海外に行くというルートだったのが、今は若いうちから早い段階でレギュラーを取って、活躍したらすぐに海外に行きたい、という選手が多くなったなと感じます。海外の市場も日本の若い世代に目を向けていますし、昔であれば20代前半だったのが今はどんどん若くなっている。そういう状況も相まって、非常に若い選手がJリーグで、というより海外を見据えて、という選手が多くなったという印象を受けています。
ーそうした現状はJリーグとしては寂しい面もあると思います。海外志向が強まってきたこと自体はいいことだと感じていますか?
難しいですね。育ててもすぐに出ていってしまうというのは、例えば堂安(律)は1年半ぐらい掛けて、やっと起用し始めて半年ぐらいで海外に行ってしまったので、本来であればもっと活躍してからいってほしいなと思ったりもします。ただ、タイミングというのもわかりますので、複雑ですね。昔みたいに何年計画ではないですけど、若手を難しい状況でも無理くり使いながら育てて、数年後にはチームの中核を担ってくれて、そういう選手を中心にチーム作りをするというのは全くできなくなったなと。いい選手はすぐに出てしまうという状況の中でチーム作りをしていかなければいけないというのは、今のJリーグの監督はどの監督もそういう形になっていると思っています。
ー長谷川監督は清水市(現清水区)出身ということで、やはり磐田に対するライバル心はありますか?
そうですね。磐田の黄金時代は追いつけ、追い越せという形でやっていましたけど、なかなかそういうふうにはいかなかったので、非常にリスペクトしているチームです。明日ヤマハスタジアムで闘うということは、感慨深いところはあります。
ーJ2降格などもありましたが、最近の磐田についてはどのような印象を持っていますか?
そこ(J2降格)からしっかりとチームを立て直して、今はJ1の舞台で伊藤(彰)監督の意図が強いサッカーをしています。どのチームでもJ2に落ちてしまう可能性があるのがJリーグだと思いますので、どのチームも必死に一戦一戦闘っているのではないかと思います。
ー最近のチームスタイルについてはどのように感じていますか?
非常にポゼッションを重視しながら、現状いる選手の特徴を生かしたサッカーをしていると思います。
ー最近対戦したFC東京や清水の記者と会話していた時に「健太さんの3バックはイメージがない」と話していました。今取り組んでいる3バックの構築は、チャレンジの面もありますか?
ガンバ(大阪)の時にやっていますので初めてではないです。3バックのいいところもあれば悪いところもあるというのは当然わかっていますし、4バックにもいいところもあれば悪いところもあると。チームとしてどちらがしっくりくるのかというところだと思いますので、先ほども言ったように名古屋の選手の守り方というところで、3バックでやったほうが対応しやすいのかなと。あとは攻撃の立ち位置も今シーズンずっと取り組んできている中で、さほど変わらないというところ。可変しなければいけないということはないと思いますけど、可変しながらビルドアップをしなければいけない状況
当然出てくると思いますので、そこをうまく落とし込めれば、4枚でやっていてもボランチが落ちて3枚になったりとか、3枚でやりながら今度はどうやって4枚にしていくのかというところさえチームとしてしっかりと理解できていれば、4枚でやろうが3枚でやろうが、サッカーの狙い自体は変わりません。ただ、ガンバでやっていた当時より3バックも進化しているというか、サッカー自体が変わっているので、4バックであってもポジショナルという概念は当然どこかで入ってこなければいけないので、3バックでやっても当然入ってくる概念だと思います。ガンバでやっていた頃とは若干違いますが、やり方的には変わらないので、それをどうやって今やっていることに置き換えて落とし込むのかというところは一つのチャレンジではあります。先ほども言ったように3枚同士の対戦と、3枚と4枚の対戦では若干いき方とかが変わってきますので、そこをしっかりとこの数試合、短期間で選手が理解してやってくれたのは非常に大きかったと思っています。