名古屋グランパスのホームスタジアムとして愛されたパロマ瑞穂スタジアム。
グランパスの初陣から29年に渡り、数々の名場面を生んできた。
改築工事に伴う休業を前に、“聖地瑞穂”と共に歩んだ関係者たちにインタビューを実施。
第7回はパロマ瑞穂スポーツパークの管理事務所に勤務する柴本信之さんに話を聞き、
グリーンキーパーとしての仕事内容やチーム関係者とのエピソードを語ってもらった。
始めに、パロマ瑞穂スタジアムとの関わりについて教えていただけますか?
柴本 私が30歳の時に、Jリーグ開幕を受けてグリーンキーパーの公募があり、その時に採用されました。芝生の管理をはじめ、公園の管理をしており、今年で28年目になります。当初は現在のスポーツターフ(スポーツで使用することを目的とした芝生)を採用するという概念がなく、スポーツに向いていない芝生でしたので、水はけが悪くて大変でしたね。そこで、名古屋市さんに協力をお願いしながら徐々にスポーツターフに移行していきました。
グランパスと共に仕事をする機会は多いですか?
柴本 そうですね。芝生のグリーンキーパーとしてグランパスさんとはよく打ち合わせをしています。
ピッチコンディションに関して、監督やコーチらチームスタッフから要望をもらうことはあるのでしょうか?
柴本 はい。監督やコーチは「練習場と同じようなピッチコンディションで試合に臨みたい」ようでして、芝生の長さを気にされていますから、私たちはグランパスさんが勝てるようできる限り調整しています。その中でも深く記憶に残っているのが(アーセン)ベンゲル監督のことです。ホームゲームの2日前は必ずグラウンドを見に来られていました。事務所に顔を出すわけでなく、グラウンドで芝生を刈っている作業員に日本語で「芝生は何ミリですか?」と聞いて帰っていくんですよね。また、ストイコビッチ監督も「練習場がこの長さだから、同じ長さで刈ってほしい」と言われることが多く、私たちはそのご要望に合わせて芝生を刈るようにしていましたよ。
スタジアム外の芝生にもグランパスのデザインがされていますが、その作業にも携わっているのでしょうか?
柴本 そうですね。年に2回か3回、デザインを変えていますよ。
スタジアム外の芝生デザインはファンにとって楽しみの一つになっているかと思います。
柴本 ありがとうございます。横からだと少し見にくいかもしれませんが、メインスタンドの上から見るときれいです。ぜひ見ていただければと思います。
グランパスがJ2で闘っていた2017年、10月29日にJ2第39節のザスパクサツ群馬戦が行われ、その日は土砂降りで一時的に試合が中断しました。雨が止んだ直後のピッチは水浸しだったものの、皆さんの技術によってすぐさまピッチ状態が改善されました。その時の状況を教えていただけますか?
柴本 Jリーグ開幕当初、瑞穂は“瑞穂田んぼ”と呼ばれていたぐらいに水はけの悪いスタジアムでした。それもあって、名古屋市さんに“絶対に水が溜まらないような設計”で作っていただくことになりました。それでも、その試合(J2第39節群馬戦)では水が溜まってしまったんですよ。普段は自然と水が引いていくんですけど、その時は水の引く速度を上回る雨が降っていたんですね。ですから、「砕石層(砕石からなる支持層)まで水を直接抜けないか」と考え、試合が中断している間にいくつかのポイントへ杭を深く打ち、穴を開けました。その結果、うまく水が引いてくれたので助かりましたね。あの時は、手が空いている事務職員や造園関係者を連れて現場に入ったと記憶しています。「試合が中断している間になんとしてでも水を抜こう」と考えて作業していました。
グリーンキーパーとしてなんとしてでも状況を改善させたかったと。
柴本 あの時はとにかく水を引かせて水溜りをなくすことを最優先に考えていました。お客さんの目の前でそういった作業をするのは格好が悪いことでもあるんですけど、「なんとかしなくてはいけない」と。NHKだったと思いますけど、試合が中断している間も中継は続いていたようで、後々知人から「中継を見たよ」とたくさんの連絡をもらいました。私は一際体が小さいので、「すぐにわかった」と言われましたね(笑)。
グリーンキーパーというお仕事の魅力とは?
柴本 普段の仕事は地味でして、それを見られることはないんですけれど、(試合が開催される時には)芝生をたくさんの方に見ていただけるわけです。私自身、少し前までは華道をしたり、舞踊をしたりして、下手ながらも誰かに見ていただけることにうれしさを感じていました。芝生を見ていただくことは、それと似たような感覚があるなと感じています。
パロマ瑞穂スタジアムは2021年から6年間の改築期間に入ります。
柴本 私がこの仕事に携わって以降、この業務に関して多くの反応がありました。以前の仕事とは異なり、皆さんに見ていただける仕事であることをうれしく思いつつも、それと同時にプレッシャーも感じながらやってきました。いいコンディションで皆さんに試合を観ていただくこと、いいコンディションだからこそ素晴らしいプレーが見られるということが、私の楽しみでした。6年間、グランパスさんの試合が観られないのはすごく寂しいですが、新しいスタジアムの完成が楽しみ、という気持ちもあります。
現在のスタジアムのほうがいい点もあるのでしょうか?
柴本 そうですね。今のスタジアムは、庶民的と言いますか、ゲートからすぐにフィールドへ入ることができるという良さがあります。また、最新式のスタジアムになると、セキュリティーの関係で外からグラウンドを眺めることができなくなるかもしれません。今年は新型コロナウイルス感染症の影響で陸上大会が無観客の状態で行われているのですが、外から少しだけ中を見られる構造になっているため、子どものお父さん、お母さんが来られて外から見ているんですよ。すごく微笑ましいですよね。それもこのスタジアムの良さだと思っています。
改築工事が完了したあとは、新たなパロマ瑞穂スタジアムと再会することになりますか?
柴本 現在57歳ですので、6年後は定年後ということになります。ただ、再雇用制度などを利用して65歳までは今の仕事を続けたいと思っています。6年後も芝生管理に携わることができればうれしいですね。
「ありがとう、瑞穂。」メインパートナー紹介⑤ フジパングループ本社株式会社
弊社はフジパンCUPとして、U-12サッカーのブロック大会を全国9か所で協賛し、サッカーに勤しむ少年少女の皆さんを応援させていただいていますが、名古屋で創業した一企業として、プロサッカーJリーグのご当地チームである名古屋グランパス様にはとくに親しみを感じており、本社のすぐそばに位置する瑞穂陸上競技場の改修工事にあたり、あらためてパートナーとして名を連ねさせていただくことに致しました。