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【連載企画】俺たちの1年目(長谷川アーリアジャスール編)

204月

2018年4月、約93万人と言われるフレッシャーズたちが社会人としての歩みをスタートしました。『INSIDE GRAMPUS』では、新生活開始のタイミングに合わせて、連載企画『俺たちの1年目』を実施。今回はプロ1年目にして開幕スタメンを飾った長谷川アーリアジャスール選手にインタビューを行いました。


インタビュー・文=INSIDE GRAMPUS編集部、写真=J.LEAGUE



―本日は長谷川選手にプロ生活1年目を振り返っていただきます。横浜F・マリノスのユースからトップチームに昇格したのは、2007年でした。ユースからトップチームに上がったことでどのような変化を感じましたか?

プロになったら練習の質も環境も全く違いました。本当にすべてにおいてレベルが違いましたね(笑)。ユース時代からトップの練習に参加することは多かったので、何となくイメージはできていましたけど。


―プロの練習に参加した当時の印象は?

この時のマリノスにはすごい人がたくさんいたのでね(笑)。練習の雰囲気はピリピリした感じでした。めちゃくちゃ緊張感がありましたよ。衝撃を受けた選手はたくさんいます。松田(直樹)選手や(中澤)佑二さん、河合竜二さんには影響を受けました。(栗原)勇蔵くんもそうですね。攻撃陣で言ったら(山瀬)功治さんや(上野)良治さん。ちょうど俺が加入した年から、ユースの選手や年齢が近い選手がすごく多くなりました。


―当時、仲の良かったチームメイトは?

天野(貴史)選手、河合竜二さん、ジローさん(清水範久)と仲が良かったですね。(狩野)健太くんもそうだな。同期では、俺と田代(真一)と斎藤陽介がユースから上がって、高卒組では乾(貴士)もいましたし。同期のメンバーは仲が良かったです。


―この年の開幕戦にルーキーながらスタメン出場を果たします。メンバーに抜擢されるまでの経緯を教えてください。

チームの始動から開幕前までは、Aチームではなく、ずっとBチームにいて。開幕が始まる1週間前くらいに若手だけで香港だったかな……どこかに遠征に行ったんです。その遠征でパフォーマンスがすごく良くて。日本に帰ってから、いきなりAチームに抜擢されたんです。開幕1週間前にスタメン組に入り、めちゃくちゃ緊張してたのを覚えてますよ。前日の練習では普通にやればトラップできるところを、トンネルしてしまったり。みんなにめっちゃいじられたんですよ。「緊張しすぎだろ!」って。俺が緊張しすぎてたから、みんなが気を使ってくれていましたね(苦笑)。


―1週間前に練習でスタメン組に入ったことで、開幕戦に先発出場することはイメージできていたのですか?

そうですね。そこからスタメン組には入ったり入らなかったりしていたんですけど、試合の2日前に完全に先発メンバー組に入っていたので、「これはリアルだ」と。その時から緊張モードに入りましたね(笑)。さっき言った通り、いつも通りのプレーができなくなりました。前日の宿泊の時に天野選手が部屋に来てくれて、アドバイスをしてくれたのは覚えています。前日練習でも河合竜二さんや佑二さんが「大丈夫だよ」と声を掛けてくれました。みんながすごく助けてくれて、試合当日を迎えましたね。


―ヴァンフォーレ甲府との開幕戦はホームの日産スタジアムで行われました。この試合でフル出場を果たしています。

そうなんですよ。開始5分に俺のパスを受けた功治さんがそのままドリブルで抜けていってゴールを決めたんです。そのプレーで「ちょっとできたな」と思えたことで、以降は意外と落ち着いてプレーできましたね。開幕戦はその1点を守りきって勝ちました。後ろには素晴らしい選手たちがいたので、やられる気はしなかったです。


―プロデビュー戦を終えた感想は覚えていますか?

終わってホッとしたっていう感じでした。試合を楽しもうとは思っていたんですけど、やっぱり緊張していたんでしょうね。でも休む間もなく、アンダーの代表候補合宿に行ったのを覚えています。


―開幕戦を終えて代表候補合宿に合流。次の週末には第2節に出場と、すごくハードな1週間ですね。

そうですよね(笑)。第2節はダービーでした。あの雰囲気はすごかったですね。ニッパツ(当時:横浜市三ツ沢公園球技場)にものすごく人が入っていましたから。入場する時に両チームのサポーターがそれぞれコレオを掲げていて、「ダービーってこんな感じなんだ」って感動しました。



―第2節の横浜FC戦。当時の公式記録を見て、いかがでしょうか?

相手に山口素弘さんがいますね(笑)。カズさん(三浦知良)、奥(大介)さん、タツさん(久保竜彦)、コウちゃん(太田宏介)もベンチにいたんだ。


―豪華なメンバーがそろっていますね。

小村(徳男)さんとかね。カズさんはすごく格好良かったのが印象に残っています。「あ、キングカズだ」って握手する時に思いましたもん(笑)。奥さんとはマリノスのアカデミー時代から仲良くさせてもらっていましたね。「おお、アーリア」みたいな感じでした。よく見ると、相手も元マリノスばかりじゃないですか。


―この試合は前半7分に失点して、0-1で敗れています。どのような記憶が残っていますか?

どうやって失点したんだっけな……。ロングボールを蹴られて、味方同士で見合っている間に詰められたような気がします。ただ、すごく攻めていたのは覚えています。途中から出場した乾がすごく良かったんですよね。


―第2節を終えた後、練習中に中足骨を骨折。2007年のU-20ワールドカップカナダ大会も欠場となりました。

(骨折は)練習中でしたね。まさに天国から地獄でした。試合に出ていましたし、U-20にも関われていたし。本当にこれからいろいろな大会に出て、世界にも行けるって時にケガしてしまったんですよ。しかも、復帰した3日後に同じところにヒビが入って、それでまた1年を棒に振って……。高卒で試合に出られていて調子に乗っていたから、鼻をへし折られたのかもしれないですよね。今振り返ると、実際にその時は調子に乗っていたと思います。まあ、今だからいい経験だったと言えますけど、その時はいろいろな可能性を感じていた中でのケガだったので、すごく悔しかったです。それでも、ケガをしている間にいろいろな人の話を聞いて、今を大事にしないといけないと教えられました。


―ケガをしていた時、どのような人から影響を受けたのですか?

河合竜二さんはいつも近くにいてくれました。竜二さんがくさらずに練習に励んでいる姿はずっと見ていましたし。すごく可愛がってくれて、飯にも連れて行ってくれていました。佑二さんもそうでしたね。そういう先輩方が俺にしてくれたことは、今でもすごく印象深く残ってます。


―サッカー選手として当時を振り返り、改めてどのような1年でしたか?

「調子に乗るな」。それを教えられたような1年でした。いい時も悪い時も経験できました。一番いい時と一番悪い時に、どういう行動をすればいいか、プロとしてどういうことをすればいいのかを教えられた気がします。それを自分で考える時間もあったし、いろいろな人から教えてもらえて気づくこともありました。自分の知らなかった世界で、生き残るためにどういうことをしているかも。本当に濃い1年でしたよ。


―学生からプロになると、私生活も大きく変わると思います。

給料をもらえますからね。ただ俺はこう見えて堅実なんですよ(笑)。初任給は自動車の免許取得のためのお金と必要な生活費以外は、全部両親にあげました。初めて自分のために買ったものはスニーカー。その時は(ジネディーヌ)ジダンが好きで、ジダンが履いていたスニーカーがほしかったんですよ。後はルイ・ヴィトンの財布ですね。それが1年目の一番高い買い物でした。


―学生時代と比べると、自由な時間も増えると思います。その時間は何をしていましたか?

筋トレをしてましたね。それこそ、ほとんどがリハビリの期間だったので。その期間も含めて、体の基礎を作るのに時間を使っていました。ちゃんと筋トレして、プロで戦える体を作ろうと思って。


―プロに入って驚いたことはありましたか?

何不自由なかったということですかね。練習着を洗ってくれて、クラブハウスにはリラックスルームがあって。当時のマリノスタウンにはビリヤード台やサッカーゲーム台もありました。暑かったらプールに入って、練習後にはお風呂で交代浴もできて。それが一番の驚きでしたね。


―当時の自分にアドバイスをするとしたら、何と声を掛けたいですか?

「調子に乗るなよ」ですね(笑)。いい意味で調子に乗っていればいいですけど、やっぱり少し浮かれていたと思います。すごく強かったマリノスで、新人で開幕スタメン。当時、自分の中では調子に乗らないようにしていたかもしれないけど、思い返すとそれでも調子に乗っていたと思うから。


―最後に、4月から社会人デビューを果たした方々に、“先輩”としてメッセージをお願いします。

俺は好きなサッカーをやりたくて、それができているので。だから苦じゃないんですよね。たとえ苦しい時でもそれを自分で消化して、どうにかいい方向に変えていくことができるから。だけど、今の時代は自分の働きたい会社や働きたい部署で働けるかと言ったら、そうじゃない人もたくさんいますよね。そういう環境の中で最初から「頑張れ!」と言っても難しいと思う。いい上司やいい同僚に巡り合って仕事が楽しくなれば、それが一番いいと思うけど。そうでなければ、無理に頑張る必要もないのかな。自分がやりたいことだったり、頑張れることはしっかりとやる。その上で、今の日本のカツカツした社会では、いい意味での息抜きが大事だと思いますね。手を抜いて頑張るのではなくて、自分の気持ちの中の落ち着きどころを作りながら頑張ってほしいなって思います。