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【インタビュー】相馬勇紀「充実のその先に」

206月

トゥーロン国際大会に挑んだU-22日本代表の中で、

名古屋の若きスピードスターが輝きを放った。

自分の武器が通用した充実感をにじませつつも、

視線の先にあるのは、4年に一度の大舞台。

相馬勇紀の挑戦は、まだまだ始まったばかりだ。


インタビュー・文=INSIDE GRAMPUS編集部




準優勝という成績でトゥーロン国際大会を終えました。今の心境はいかがですか?

相馬 真っ先に出てくるのは悔しさですね。優勝したかったです。タイトルを取れる瞬間にあれだけ近づくというのは、人生の中で何度もあることではありません。しかも勝敗を分けたのはPK戦でした。目の前にチャンスがある中で、タイトルを取れなかった。それがとにかく悔しいですね。


大会前のインタビューでは「楽しみしかない」と語っていました。

相馬 悔しい想いも含めて、すべて楽しかったです。特にわくわくしたのは1対1の迫力。最後に戦ったブラジルの選手たちは仕掛けてくるタイミングやフェイントをかけるタイミング、足の出てくるところが独特でした。Jリーグとはまた違ったものを感じられましたね。個人で剥がしにくる意識も日本と海外の選手では全く違いました。それでも、やられていたわけではないですし、僕がドリブルで抜くシーンや守備でボールを奪いきる場面を作ることできたと思います。

U-22日本代表はどういった雰囲気のチームでしたか?

相馬 全員が明るくて、仲も良かった。とてもいい雰囲気のチームでしたよ。僕がこの世代の代表に参加したのは初めてでしたけど、対戦したことのある選手が多かったですし、高校生の頃に参加した東京国体でチームメイトだった選手もいたので、すんなり入れたと思います。


1試合ごとに選手を大きく入れ替えるメンバー起用となりました。その中でも、チームとしての一体感を持てていましたか?

相馬 一体感はあったと思います。1試合目のイングランド戦と2戦目のチリ戦でメンバーがだいたい二つに分けられていて、お互いに「そっちのグループよりいい結果を出してやる」といったモチベーションを共有していました。みんながメラメラしていたことで、結果としていいグループになったと思います。


チームとしてどういったサッカーを目指していたのですか?

相馬 フォーメーションは3-4-2-1を採用していました。ウイングバックがサイドで高い位置を取り、FWやシャドーと絡みながら、数的優位を作って相手を崩していくサッカーですね。


グランパスとかなり違う戦い方だったと思います。戸惑いはありましたか?

相馬 戸惑いは全くありませんでしたね。個人的にはグランパスのほうが難しいと感じていました。代表はスタートのポジショニングと配置で優位に立ち、それを生かして戦うイメージです。一方で、グランパスは相手を外しながら、自分たちで優位な状況を作っていく。相手の位置を見ながらそれぞれの選手がポジショニングを取り、外して、動いての連続でゴールに向かっていくイメージです。グランパスのトレーニングで、普段から限られたスペースの中で頭を使いながらプレーしているので、すんなりと代表のサッカーに入ることができました。


ポジショニングに関する決めごとの有無が違いの一つだったと。

相馬 決めごとというよりは、それが適切な形だったのだと思います。ウイングバックがずっと中央に絞っていたら、あのフォーメーションはおそらく成立しない。そういう意味ではポジションが固定されていましたけど、自分の特長を出せなくなったわけではないので、問題はなかったですよ。


「ポジションは関係ない」と語る風間八宏監督のサッカーと違い、動きが制限されるやりづらさはなかったのでしょうか?

相馬 代表の形に慣れている状態でグランパスに来たらやりにくさがあるかもしれません。でも、代表で取っていたポジショニングはグランパスの中で取っているポジショニングのうちの一つですから。なので、普段やっていることが本当に力になったと思います。グランパスで僕がやっていることが代表のサッカーにつながったと感じましたね。


左サイドの広いスペースをカバーするため、ポジショニングに気を使っていた印象です。

相馬 そうですね。前に行くところ、行かないところの見極めは意識していました。でも、基本的には行くという選択肢を選んでいましたね。攻撃の時は高い位置を取ろうという考えなので、パスを受けられるのであれば前に出る。そこの運動量や走力が求められるポジションだったと思います。


今シーズンのリーグ戦に限ると、大会参加前にはまだフル出場した試合がありませんでした。体力的な部分はいかがでしたか?

相馬 正直、初戦では息が上がってしまう時間帯もありました。でも、試合をやっていく中でだんだんと慣れていきましたよ。戻るべきところはしっかりと戻る必要がありますし、時にはスプリントで戻る場面も出てきます。ただ、相手がいない時は必要以上に下がらなくていいですし、そういうところで頭を使いながらプレーできていました。そこは90分を通してうまくできたと思います。


適応という意味では、大会初出場となったチリ戦を大勝で飾れたことが自信につながったのでは?

相馬 そうですね。まずは最初の試合でアシストという結果を出せたことが良かったと思います。その上で、細かいポジショニングに関する指示を受けながら、「ああ、このチームはこういう感じでやるんだ」とイメージがつかめました。いい形で大会に入れたと思います。




大会を通じて印象に残った対戦相手はいますか?

相馬 やはりブラジルですよね(笑)。敵わないほど強かったかと言われたら、そうは思わないです。だけど、やっぱり強かった。決定機はそこまで作られなかったですけど、こっちも決定機を作れていないので。改めて振り返ると、そこまでいかせてくれない強さがありました。


ブラジルにはPKで敗戦。どこに差があったと感じていますか?

相馬 PKに関して言えばメンタルです。試合の内容については個人の能力で向こうのほうが勝っていたと思います。日本のほうが組織力が高くても、ブラジルは個人のクオリティーが高いから、そこから崩されてしまう。日本が組織としてまとまってプレーした上で、それぞれが目の前の相手をドリブルで抜いたり、動き出しで外す部分で上回れていたら、絶対に勝てたと思います。例えばブラジルのセンターバックは強さと高さがあって、難しい局面でも2人で守りきれてしまう。攻撃では、失点したシーンがそうでしたけど、3人の関係だけで得点できる。そういうところに差があったと思います。


個人の質の差に関して、対戦して印象に残った選手はいますか?

相馬 「この選手はやばいな」と思うことはなかったです。たしかにうまい選手は多かったですけど、僕が負けず嫌いというのもあって(笑)。「やれないことはない」というのが正直なところですね。強いて言うなら、ブラジルの7番のアントニー選手とボランチの18番(エンリケ)。18番はマッチアップしたわけではなかったんですけど、見ていて嫌だと感じていました。大会MVPに選ばれたドウグラス ルイス選手が注目されていましたけど、18番はドリブルの侵入がうまいし、いいところにポジションを取っていました。彼の存在のおかげでブラジルが良かったのだと感じましたね。


一方、チームメイトで印象に残った選手はいますか?

相馬 僕が大学出身というのもあると思いますけど、大学から参加している選手たちのプレーは印象的でした。旗手怜央は得点能力を示しましたし、田中駿汰も三笘薫もクオリティーを見せていたと思います。大学サッカーは個人のパフォーマンスが試合を決めることが多いんです。能力の高い選手が何人も相手を抜いて得点を決めたり、1対1から優位な状況を作り出したり。そういう選手はチームメイトからも頼られますし、「自分が活躍しないと優勝できない」という自覚を持っている。そこを考えた時に、大学出身の選手や今の大学生は個人で剥がすプレーを第一に選択する。だから、相手に向かっていけると思うんですよ。三笘はブラジル相手でもガンガン仕掛けにいっていました。相手の目の前で受けて、はたいて、動き直してとやっているだけだったら、結局相手は崩れない。目の前の選手を剥がしていければ、相手は後手を踏むし、チャンスになる。ブラジルとやって改めて考えると、やはり個人で剥がすプレーが大切だし、得点につながると思いました。僕も対面した2番(エメルソン)のところに仕掛けにいきましたし、得点には至らなかったけどチャンスを作ることができました。個人で相手を剥がすことができないと、世界では勝てないと感じましたね。もちろん、Jリーグから来ている選手がそれをできていないというわけではありません。大学を経てプロに入った僕の贔屓目かもしれないですけど、大学組もそれぞれが大切な4年間を過ごしているのだと感じました。


大会を振り返って、自分の武器をどれくらい出すことができたと思いますか?

相馬 攻撃であればドリブルのところですね。ガンガン仕掛けていけましたし、ボールを引き出す動き出しもできたと思います。ただ、もう少し相手を見ながらゴール前に入っていければ良かったと思います。


守備面についてはいかがでしたか?

相馬 グランパスでサイドバックをやらせてもらったこともあり、落ち着いて背後の対応ができました。ワンツーをされても簡単に裏を取られることはなかったと思います。対人で負けるつもりはなかったですし、ブラジル戦で尻もちをついたシーン以外は相手にやらせていなかったと思います。フィジカル的にもいい手応えを感じられました。ブラジル人選手の独特なタイミングや加速で後手を踏むこともありましたけど、スピードや単純な走力でカバーできていました。フィジカルコンタクトでも、腰を低くして寄せにいって、取りきれるシーンを作れたと思います。相手に向かっていくメンタルも含め、いい感覚を得られた大会でした。


グランパスでのトレーニングや試合の中で、大会を経た自分の成長を感じられていますか?

相馬 そうですね。合流初日のトレーニングから、距離の詰め方や自分でボールを取りきるところがパワーアップしたと感じられました。「一発で寄せて、剥がされたらどうしよう」と迷っていた部分が大きく変わったと思います。ブラジルの選手と対戦した時に、「ここで潰しきらないとやられる」というシーンが何度もありました。そこで距離を取ってしまうと相手のいいようにやられるから、どれだけ距離を詰められるかが重要なんですよね。そういうことを考えながらプレーしていたので、ディフェンス時の相手との距離感が近くなったし、ボールを奪える範囲も広がったと思います。


相馬選手は「結果を持って帰ること」を大切にしています。今大会は結果を出すことができたのでは?

相馬 そうですね。アシストやゴールという結果が出せましたし、PK戦ではシュートを成功させることができたので、そこは良かったと思います。サイドバックとしてですけど、大会のベストイレブンに選出していただけたのもポジティブな部分です。自分の良さを出す場面は何度か見せられたかなと。東京五輪を考えると、あとはグランパスでの今後の活動が大切になってくると思います。


この大会で見つけた課題や、この大会を経験したことで設定できた目標を教えてください。

相馬 スピードのあるマテウス、テクニックのあるジョアン(シミッチ)や(ガブリエル)シャビエル、パワーのあるジョーと、普段からレベルの高い外国籍選手とプレーできているので、今回のトゥーロンでも普通にプレーすることができました。「止める、蹴る」の技術面はまだまだですけど、いつも狭いスペースでやっているので、広いエリアの中で余裕を感じられましたし、自分の成長を実感できた大会だったと思います。今後の課題としては、クロスをピンポイントで合わせるところや、カットインした時にクロスだけでなく、シュートまでいくバリエーションを持てるようにすることですね。ブラジルの2番との1対1が印象に残っていて、ドリブルで抜けたけど、タッチが大きくなって、ゴールラインを越えてしまったシーンがありました。ああいった局面で正確に、ピンポイントのクロスを送れるようにしたいと思っています。まだまだいろいろな面で成長が必要ですけど、明確なところから一つひとつ上げていきたいと思っています。