「グランパスを背負って立つ存在になる」。当時、スカウトを務めていた中村直志氏は、14歳の少年を見てそう確信し、すぐさま獲得に動いたという。FC多摩ジュニアユースで輝きを放ち、数多のクラブがラブコールを送った貴田遼河は、いかにしてグランパスアカデミーの一員になったのか。獲得に尽力した中村氏にインタビューを行い、加入の全貌に迫った。
インタビュー・文=INSIDE GRAMPUS編集部
スカウトとして貴田選手を初めて見たのは、北海道帯広市で行われた第34回日本クラブユースサッカー選手権(U-15)大会とお聞きしました。
中村 そうですね、遼河が中学2年生の時でした。以前から彼の存在は知っており、帯広市の大会で見られるということで視察に行ったんです。ただ、遼河を見ることだけが目的ではなく、当時獲得に動いていた選手も含めた視察でした。
初めて見た時のパフォーマンスはいかがでしたか?
中村 2年生ながら、目の前でゴールを決める姿を見せてくれました。どういうプレーヤーなのかを確認しようと思っていた中で、ゴール前でのセンス、決めきる能力を見せてくれました。
ストライカーとしての資質を十分に持ち合わせていたと。
中村 はい。2年生ということもあり、ある意味でそこに特化していたという側面もあったと思います。また、2年生でありながら3年生に遠慮することなく要求していたことも印象に残っています。
帯広市での視察をきっかけに、その後も視察を続けることになったかと思います。
中村 大会終了後、すぐにFC多摩(ジュニアユース)の指導をされている平林(清志)さんに「次に開催される練習試合を見させてください」と伝えました。キャプテンシーやチームを勝利に導く雰囲気など、遼河のパーソナリティーが見られるようになったのはそこからですね。チームメイトを鼓舞する声を出す姿も強く印象に残っています。ただ単に声を出しているわけではなく、彼が日頃からチーム内で存在感を発揮していたからこそ、一言一言がチームメイトに伝わっていることが感じられました。
FC多摩ジュニアユースの平林監督とはどういったコミュニケーションを取ったのでしょうか?
中村 「貴田選手に才能を感じていて、グランパスとして注目しています。今後、彼を見させてください」と伝えさせていただきました。今でもよく覚えているんですけど、平林さんが遼河を呼んでその話を伝えてくれた瞬間を会場の外から見ていたんです。すると遼河は笑顔を見せて、すごくうれしそうにしていました。おそらく、一番最初にJクラブからの興味を伝えられた瞬間だったと思うんですけど、そういうリアクションを目の当たりにして、スカウトとしてすごくうれしかったですね。
その後、Jクラブを含めて多くのスカウトが貴田選手の獲得に動くことになるかと思いますが、グランパスとしてはすでに獲得の意志を固めていたのでしょうか?
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