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【コミュニティー・ストーリー】ボランティア×名古屋グランパス

1811月

選手でもフロントスタッフでもなく、サポーターとも少し違った方々に焦点を当てた短期連載『コミュニティー・ストーリー』。名古屋グランパスはさまざまな方々に支えられて進んできました。我々がともに歩んできた方々のうち、「ホームタウン」、「パートナー」、「ボランティア」をピックアップし、クラブスタッフとの対談をとおして関係性を紐解いていきます。第3回は「ボランティア」をテーマに、ボランティアの松本己紀夫さんとマーケティング部運営マネージメントグループの東貴雄による対談をお届けします。


インタビュー・文=INSIDE GRAMPUS編集部


まずは自己紹介をお願いします。

 名古屋グランパスのマーケティング部運営マネージメントグループに所属し、ボランティアを担当している東貴雄です。ボランティア組織を立ち上げ時は、運営チームの3人で仕事を分担しながらやっていました。昨年から主にボランティアを担当するようになって、今年で担当2年目に入りました。

松本 松本己紀夫と申します。ボランティア組織が立ち上がった2018年から参加していて、今年で3年目です。

 松本さんは去年のホーム全試合にボランティアとして参加してくださいました。2人いる皆勤者のうちの1人なんです。


ボランティアを始めたきっかけは?

松本 私は日本リーグ時代からサッカーを観ていて、Jリーグ開幕後は最近までシーズンチケットを買って、ゴール裏でグランパスの試合を観戦していたんです。サポーターの時は開場の2、3時間も前からスタジアムに来て、開場を待つために並ぶんですよ。アルバイトの方は「順番に並んでください」と呼び掛けて、列を整備してくれましたが、社員さんの声がなかなか聞こえず、「声を掛けて、手伝うスタッフはいないのかな」と感じていました。すると、2018年にボランティア募集が始まったんです。「試合を観たいけど、違った面からグランパスを支えたい」と思い、参加することを決めました。実際に社員さんの数が少なく、「この人数で大丈夫なのかな」と思った一方で、自分なりに少しでも手助けできればと思っていました。

 社員の数はそこまで多いわけではなく、実際に試合の日はアルバイトスタッフや警備の方に運営会場のベースを作っていいただいています。その上で、お客さまと1対1で接するという面では、ボランティアスタッフならではのコミュニケーションがあると思っています。グランパスのことを愛してくれる方ばかりで、クラブや会場のことをよくわかっていますからね。2018年にボランティア組織を作ったことで、ご来場者に対する一歩踏み込んだおもてなしをできるようになったと感じています。ボランティア組織ができたのはJリーグクラブの中でも最後になりましたが、これから素晴らしい組織にしていきたいです。


1日の流れを教えてください。

松本 今年は新型コロナウイルスの影響で流動的でしたが、基本的に豊田スタジアムではキックオフの5時間前、パロマ瑞穂スタジアムではキックオフの4時間30分前に集合です。私は作業の準備やボランティアさんを控え室まで案内する受付サポートという役割もやっていて、集合時間の45分前に来ています。全員がそろったら控え室でミーティングを行い、作っていただいた運営資料を見ながら、東さんからその日の流れやボランティアの規約などを伝えてもらいます。ミーティングが終わると、各担当場所に分かれて行動します。私の場合はエコステーションというゴミの分別のところ。昨年のホームゲーム全22試合でやらせてもらい、今年もそこを中心にやっています。必要備品をテントまで持っていき、それを設置してお客様を受け入れています。中には設置前からゴミを持ってくる人がいますが、それでも優しく受け入れていますよ(笑)。ゴミの分別に加え、エコステーションではペットボトルキャップの回収もやっています。それをワクチンに変えて、ミャンマーやラオスなどの海外の子どもたちに届ける活動です。今年はエコステーションだけではなく、ピッチでセンターサークルシートを掲げるお客さまの案内や、ハーフタイムにはトイレの案内などもやっています。試合終了後はお客さまをお見送りして、終礼を行います。終礼にはよほどのことがない限り小西(工己)社長が挨拶に来てくれて、お礼の言葉や試合終了直後の選手の様子を話してくれます。終礼が終わり次第、解散です。いろいろな場所を行ったり来たりするので、私の場合、夏は1.5キロから2キロほど体重が減りますね。自然のダイエットだと思っています(笑)。


エコステーションで作業に励む松本さん(左)


印象に残っているエピソードを聞かせてください。

 いろいろなエピソードがあります。今年は新型コロナウイルスの影響でできていませんが、試合に勝利した時、お客さまにはボランティアさんとハイタッチして帰っていただいていました。ボランティアさんが笑顔で送り出し、お客さまが笑顔で帰っていく光景は、1日のハイライトのようなシーンですよね。2018年の残留が決まった最終節は引き分けでしたが、皆さんが楽しそうにハイタッチをして出ていく様子を見て、一つになっていると感じましたし、「ボランティアをやっていて良かったな」と思いました。

松本 東さんの言うとおりですね。多くのお客さまが試合を楽しみ、笑顔で帰っていく姿を見ると「ボランティアをやっていて良かった」と感じます。勝った時には120パーセントのエネルギーでハイタッチや握手ができる。多くの人の気持ちが一つになっていると肌で感じられますし、お互いが明るくなりますよね。こういう思いをあまり感じることがなかったので、ボランティアを始めて良かったです。今シーズンはチームの調子がいいですし、多くの笑顔が見られてうれしいですよ。新型コロナウイルスが収束し、ハイタッチできる日が1日でも早く戻ってくることを願っています。加えて、若い方と交流できること。ある方は「松本さん、来年もボランティアやりますよね」と誘ってくれるほど仲良くなっています。ボランティアに参加することでコミュニティーができて、年齢が大きく離れた方ともいろいろな話ができるのはいいですよ。あとはこの状況の中、「Zoom」での懇親会を企画してくれて、すでに3回ほどやりました。

 Jリーグがいつ再開するかわからなかった3月から5月にかけて、関心を持ってもらおうと思って「Zoom」での懇親会を実施しました。皆さんとコミュニケーションを取らないと、ボランティアに対する気持ちが離れてしまうのではないかと懸念したからです。みんなで集まることもできませんでしたからね。また、皆さんが新型コロナウイルスに対してどういった感覚を持っているのか、新型コロナウイルスをどれくらい怖いと感じているのか知りたかったんです。皆さんとのギャップを埋めて、意識のレベルを合わせておかなければ、いざ再開した時に「こういった備品はないんですか」や「これくらいはやったほうがいいんじゃないか」といった意見が出て、スムーズにいかないかもしれないと思ったんです。試合の時にしかお話できない方もいましたが、「Zoom」を通じてコミュニケーションを取れるようになりましたし、オンライン飲み会をやったら「この人はこんな性格なんだ」とわかることができました。より親しい関係になって、リスタートできたと思っています。企画して良かったです。


一番大変だったことは?

 大変だったことというより、ボランティア組織を立ち上げた時、本当に人が集まってくれるのか不安でした。加えて、安定して参加してくれるのか、皆さんがコミュニケーションを取り合ってくれるのか。さまざまな不安がありましたが、2018年、2019年、2020年と年を重ねるうちに解消されました。控え室の様子を見ていると、和気あいあいと話していて、中には野菜を配っている方もいて(笑)。結果的に大した心配ではなかったなと。ボランティアとしてクラブを支えてもらうこと以外に、グランパスを通じて新しいコミュニティーができたり、知り合いが増えたりすることも一つの目的だと思っています。

松本 65歳から始めたので、肉体的な部分では大変ですね。また、誰よりもやる気を持ってスタートしたけど、1日動けるのかなという不安を持っていました。しかし、いろいろな方に助けてもらいながら問題なくできています。人と話すことが好きですし、サッカーが大好きということもあり、大変だったことはほとんどありません。雨や雪、台風など、天候によっては大変なこともありますけどね。豊田スタジアムでの試合で風の強い日があり、かなり強い風が吹いて、ふと見たらゴミ箱が飛ばされていたんです。そうしたらエコステーションにお客さまが流れてきて、ゴミの山になって大変だったことはあります。あとは笑顔で対応すること。ある学生の方がなかなか笑顔で対応できずに悩んでいたんです。笑顔で対応することの難しさを改めて気付かされて、自分のことを見つめ直しましたね。


学生さんが参加することで、ボランティア全体が活性化されるのでは?

 ボランティアパートナー契約を結んだ名古屋リゾートアンドスポーツ専門学校の学生さんは各試合で10人から20人くらい参加していて、若いくてパワーや活力を感じることがありますね。松本さんのような経験のある方にいろいろと教えてもらい、それをアウトプットすることで理解が一層深まる部分もあると思います。ボランティアなので、利害関係のない状態で接します。それは社会人になるとなかなか経験できないですし、そういったコミュニケーションもいいですよね。

松本 学生さんがいるのはとても助かっています。「私は年寄りだから」と言いながらコミュニケーションを取って、重い物を運んでもらったり、ポスターなどを高いところに貼ってもらったり。若い子がいるだけで明るくなりますしね。また、私は彼らのような年代の方と話す機会がほとんどないので、いろいろなことを話して、その子がどんなことを思っているのか引き出しています。休憩をしている時でも「今日はどう?」、「今日は大丈夫?」などと声を掛けるようにしています。


理想や目標を聞かせてください。

 お客さまがおもてなしを感じるスタジアムにすること。その中心をボランティアの方々に担っていただきたいと思っていますし、そこに向かっていけるように動いていきたいです。ボランティアさんが考えたことを実現させ、素晴らしいスタジアムにしていければと思っています。

松本 「町いちばんのクラブ」を目指すこと。そこに向けて、なにができるのか、どうしたら喜んでもらえるのか、また試合に来てもらえるのかなど、いろいろなことを考えながら活動していきたいです。ある男性の方は今年から息子さんと一緒に参加してくれています。そうやって未来永劫続いていくようなボランティア組織になることも理想ですね。