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【コミュニティー・ストーリー】大須商店街×名古屋グランパス(ホームタウン編)

411月
選手でもフロントスタッフでもなく、サポーターとも少し違った方々に焦点を当てた短期連載『コミュニティー・ストーリー』をスタートします。名古屋グランパスはさまざまな方々に支えられて進んできました。我々がともに歩んできた方々のうち、「ホームタウン」、「パートナー」、「ボランティア」をピックアップし、クラブスタッフとの対談をとおして関係性を紐解いていきます。第1回は「ホームタウン」をテーマに、大須商店街連盟の大久保良平さんとホームタウングループの田中希代子さん、MDグループの吉村一彦さんの鼎談をお届けします。


インタビュー・文=INSIDE GRAMPUS編集部


左から田中さん、大久保さん


―まずはそれぞれの業務について教えてください。

大久保 私は東仁王門通りの理事、事業部長を務めさせていただいております。また、大須商店街連盟に常任理事として出向していまして、その中にいくつかある部のうち、青年部の部長を担当しております。大須には8つの通りがありまして、それぞれの通りごとの組織があり、横断的な連盟もある、という形なんです。その中で、東仁王門通り、大須商店街連盟のそれぞれからグランパス担当も仰せつかっております。


田中 私が所属しているのはホームタウングループという部署で、地域での活動が業務の中心です。大久保さんを含めた各商店街の方々や行政の方々と連携して、まだ興味を持っていない人にグランパスを広めていくための活動をしています。グランパスには名古屋市、豊田市、みよし市を中心として愛知県全域をホームタウンとしており、出発点として、まずはそこに住む皆さんに「Jリーグのクラブがあるのか」、「グランパスはここがホームタウンなのか」と思ってもらえることが重要だと考えています。そのために、商店街の方々や地域の方々と連携してさまざまな企画を行っています。


吉村 私はマーケティング部内にあるMDグループのグループリーダーとして、グループ全体の統括のほか、ショップマネージャーを担当しています。業務内容としては、スタジアム、クラブグランパス、ECのすべてを管理することに加えて、商品開発も行っています。


―ありがとうございます。まずはグランパスにとって、大須商店街はどういった位置づけなのでしょうか?

田中 名古屋で人が集まるところいうと名古屋駅と栄という2大スポットが思いつきますよね。個人的には大須商店街もそれらに匹敵する存在感があると思っています。地理的な側面から見ると、いろいろな人が集まる街だと捉えています。


吉村 どんな業種であれ、名古屋で出店を考える時には名古屋駅か栄というのが最初に思い浮かぶと思います。どちらも全国的に有名で、認知度があることは間違いありません。ただ、僕らとしては名古屋の魅力を感じられるところに出店したかったんです。県外からもお客さまが来てくださることを想定すると、名古屋駅や栄は都会的で、見たことのあるような場所だと思います。一方で大須商店街はひと目で見て驚きがあるというか、“名古屋らしさ”がある場所だと思っています。そういった土地のほうが、県外から来た人にもより楽しんでいただけると考え、大須商店街に出店することにしました。




―大久保さんから見て、大須商店街にはどのような魅力があると感じていますか?

大久保 今年は夏祭りといったイベントごとができなかったので、代わりにオンラインでセールを行いました。その名も「大須ごった煮市場」。なぜごった煮かと言うと、名前のとおり大須商店街はあらゆるものがごった煮となっているからです。東仁王門通りでは外国料理のお店が増えてきていて、赤門通りは電気系が集まっていて、万松寺通りは衣服店が多い、というように、通りごとに全く異なる雰囲気があります。そういった点は全国各地から視察に訪れる方々も驚かれる部分なんですよね。名駅や栄で売られているようなブランド品は見つからないかもしれませんが、ここに来れば基本的になんでもそろうと。流行りものやレトロなもの、おもちゃから海外の商品までごった煮となっているのが大須の魅力だと考えています。


―大須商店街は2008年よりグランパスのサポートタウンとして連携しています。サポートタウンであることの意義はどのようなところにあると思いますか?

大久保 いつでもできるわけではありませんが、グランパスさんとさまざまなイベントを実施することによって、大須商店街に来てくださる方々が増えるという効果があります。また、試合の前後にグランパスのユニフォームを着たお客さまが食べ歩きをしたり、買い物をしたりしている姿を見るとうれしく思いますね。私だけでなく、うちの相談役の小寺さんがスポーツ好きで、「グランパスが優勝したらあれをしたい、これをしたい」と常に言っているんですよ。そうやって一緒になって大須商店街を盛り上げていけることが大きいと考えています。


田中 小寺さんはとてもグランパスのことを応援してくださっているんです。東仁王門通りに「グランパスを応援しています」という大きなバナーを掲げていただいているのですが、それをやろうと声を掛けてくださったのが小寺さんでした。


大久保 装飾で言うと、のぼりもありますね。東仁王門通りでは季節ごとのイベントによってのぼりを変えているのですが、通常時はグランパス一色で統一しています。


田中 いろいろな店舗が集まる商店街なので、賛否両論があると思うんです。その中で、大久保さんや小寺さんが「ここにはグランパスのショップがあるから、グランパスののぼりを立てよう」と掛け合って、理解してもらえたからこそ実現しています。なので、本当に感謝しています。


大久保 今年は新型コロナウイルスの報道で大須の人通りが映像がよく使われたのですが、その映像でズラーッとグランパスののぼりがあって、思わぬ形で目立っていましたね(笑)。


田中 去年はタピオカブームの映像で大須商店街が使われて、そこでグランパスののぼりがバッチリ映っていましたね。小西(工己、代表取締役社長)が「ありがたいな!」と言っていました(笑)。


―大須商店街とグランパスがさまざまなイベントを行うようになったきっかけはありますか?

田中 大須商店街は2008年からグランパスのサポートタウンだったのですが、なかなか大掛かりなイベントを実施する機会がありませんでした。その中で大須商店街とグランパスの関係が一気に進展したのは、名古屋市の河村たかし市長に大須近代化事業協同組合の中野さんを紹介していただいたところからですよね?


大久保 そうですね。大須商店街連盟はソフト面、大須近代化事業協同組合はハード面をそれぞれ担当していて、中野さんは後者のトップです。


田中 河村市長とグランパスの小西が会食をした際に、小西が「大須が盛り上がっているので、グランパスともコラボできたら」と話をすると、「大須近代化事業協同組合の中野は同級生だから、今電話したるわ」と連絡してくれたそうです(笑)。そこから中野さんが各方面に「グランパスと一緒になって盛り上げていこう」と発信していただいたことで、大きく流れが変わりました。それが2017年の末で、2018年からシーズン開幕に向けた商店街での練り歩き、応援呼びかけ活動が始まったんですよね。


―これまでの取り組みで印象的なものはありますか?

田中 私は先ほど挙げた開幕前の応援呼びかけ活動です。選手が大須商店街を練り歩いて、チラシを配ったり、「今年もよろしくお願いします」と応援を呼びかけるイベントです。2018年は「『大須商店街でJ1の風を吹かせよまい!』選手応援呼びかけ活動」、2019年は「名古屋グランパス×大須商店街2019シーズンキックオフセレモニー」というタイトルで行いました。今の状況からだと考えられませんが、普段どおりの休日の人出に加えて、グランパスの告知を見た方々も参加して、本当に多くの方に集まっていただけました。選手も握手をして、写真を撮ってと大忙しでしたね(笑)。


大久保 あれはすごかったですね。商店街を囲むように400、500メートルくらいの距離を歩くのですが、何百人もの人がズラーッと集まりましたから。私も一番最初に実施した、2018年の応援呼びかけ活動が最も印象に残っています。


田中 そういえば去年、選手に練り歩き参加を打診していた時に、もともと別の予定があった前田直輝選手が「大須に行きたい」と言ってくれたんです。「以前に参加した時に地域の人たちから『ありがとう』、『頑張って』と言われるのがとてもうれしかったので、参加したいです」と。私はそれがとてもうれしかったんです。大須は選手とグランパスファミリーをつなぐ場所でもあるのだと感じた出来事でした。




―多くの人が集まる商店街を練り歩くということで、運営面で難しいこともあったのでは?

吉村 ありがたいことにグランパスが浸透してきていて、今後は人出が多くなりすぎてしまうかもしれない、というのが懸念としてありますね(笑)。


大久保 できる限り私たちが交通整理しますので(笑)。我々は「大須コスプレパレード」というイベントもやっておりますので、そういったイベント運営には慣れています。


田中 露払いや交通整理などをやっていただき本当に助けられています。特に初めて実施した時は私たちに運営のノウハウがなかったので。ほかには商店街の清掃活動、夏祭りで「お化けdeパレード」への参加もありましたね。


大久保 「お化けdeパレード」は通りごとに仮装して、お神輿を担ぐ夏祭りのイベントです。昨年の仁王門通り・東仁王門通りチームは河童の仮装をしました。それにグランパスくんが参加して、河童の皿とクチバシをつけて一緒に歩いてくれました。夏だけではなく、春や秋のお祭りにもグランパスくんが参加してくれていますね。


田中 大須商店街の方々のエネルギーは凄まじいですね。それぞれが自身のご職業を持っている上で、さらに連盟の仕事を担っていますから。それも全力投球でおもしろい企画を作っていて、皆さんのパワーによく驚かされます。


―クラブグランパスの復活オープンも象徴的な出来事だったと思います。どういった経緯で出店されたのでしょうか?

吉村 中野さんから、「大須商店街連盟会館の階下に空きが出る」という話を小西にしていただいたことがきっかけでした。その後、小西から私に連絡があり、是々非々で、総合的に判断してくれて構わないと指示を受けていました。2、3カ月ほど現地調査をしたり、大須商店街の皆さんと話をしたりして、「大須ならファミリー感があって、支え合って店舗運営ができる」と判断しました。また、大須だからこそアプローチできる世代があることも魅力の一つでした。グランパスファミリーのボリューム層はミドル世代なのですが、地域に昔から住んでらっしゃる方々も、若者たちも集まるのが大須です。それに加えて、海外からの観光客、アウェイサポーターも集まる土地だということも大きかったです。


大久保 最初に復活オープンすると聞いた時は、イチサッカーファンとして素直にうれしく思いました。オープン直後やお正月は商店街を通り越すほどの行列ができていて、商店街としても大きな出来事だったと思います。また、クラブグランパスが復活オープンしてから、試合日にユニフォームを着て商店街に来てくださる方がかなり多くなった、という変化も感じています。ちょうどここはパロマ瑞穂スタジアムも豊田スタジアムも乗り換えなしで行ける場所でもありますから。


田中 私としても、クラブグランパスができたおかげで、さらに商店街の皆さんとより密に連携が取れるようになりました。視覚的にもよりグランパスが街に溶け込んでいることを感じられます。また、グランパスに興味がある方がクラブグランパス以外のお店を訪れることもあるでしょうし、興味がない方にとってはクラブグランパスがタッチポイントになるという意味で、かなり相乗効果があると感じています。


大久保 東仁王門通りにはブラジル料理店、トルコ料理店があって、その影響でサッカー好きの両国の方々も集まりますよね。それこそ、選手たちが大須商店街やクラブグランパスを訪れることもあります。


―商店街の魅力とグランパスの魅力が重なって、多くの方々が集まる場所となっているということですね。営業成績から見たクラブグランパスはいかがですか?

吉村 ほぼ想定どおりで推移しています。スタジアムや駅以外にオフィシャルショップを持っているのはJリーグの中で4クラブあって、その中でグランパスがトップの売上を出しています。特に好評をいただいているのがユニフォームで、ここではネームプリントができるんですよ。なので、試合の前や前日に、観戦に向けて来店いただけています。


―今年は新型コロナウイルス感染症の影響で、やりたくてもやれなかったイベントがあると思います。

田中 それこそ、今年はシーズン開幕前の練り歩きを実施できませんでした。私たちホームタウングループとしては、一体となって地域を盛り上げるという点からとても大事にしているイベントです。それを実施できなかったのがとても残念でした。


大久保 今年一緒にできたのは「ごった煮市場」くらいでしょうか。チャリティーイベントとして、中日ドラゴンズとグランパスから選手の非売品をいただいて販売し、その売上を寄付する、という企画です。15分で完売になったので、人気の高さを感じましたね。


田中 今年は人が集まるイベントを実施できないので、企画が本当に難しいです。ただ、こういった形で地域に貢献することができて良かったと思います。


吉村 クラブグランパスとしては、スタジアムに行きたくても行けない人のために、スタジアムと全く同じものを売る、という工夫をしました。「家で観戦するけど、一度クラブグランパスに行ってテンションを上げる」と語ってくれる方がいましたので。その効果もあって、試合日では昨年以上の売上をあげる日もありました。




―大須商店街とグランパスがタッグを組んで、今後やっていきたいことはありますか?

大久保 ぜひタイトルを獲得してもらって、ビールかけをやりたいです。とはいえ今年はサッカーも野球も1位がずば抜けているので、なんとか2位を目指してほしいですね。そしてゆくゆくは優勝パレード、ビールかけをしましょう。私としては、グランパスが優勝するためにはなんでもしたいと思っていますよ。


田中 大久保さんには以前からずっとそう言っていただいています。タイトルを獲得することができたら、ぜひ実現させたいですね。


―大須商店街とグランパスの、パートナーシップのゴールはありますか?

田中 すでに素晴らしい関係を築かせてもらっています。例えば、私たちからこういう企画をやってみたいと提案すると、毎回なにかしらの形で実現できるように対応してくださるんです。私だけでは実現できないことを、大久保さんを含め連盟の方々が一緒になって作り上げてくれることをとてもありがたく思っています。だからこそ、大須商店街が困った時は、私たちができることはなんでもやりたいです。グランパスが今後続いていく中で、こういった関係を絶対に途切れさせてはいけない、今この期間だけのものにしてはいけないと強く思っています。


吉村 あとはグランパスがより強くなるだけですね(笑)。グランパスがACL(AFCチャンピオンズリーグ)に出場できれば、アウェイサポーターが来日して、海外からのお客さまを大須商店街に呼び込むことができます。グランパスの成績を大須商店街に還元するサイクルが生まれたらいいですね。大須商店街の知名度にグランパスが助けられているだけではなく、グランパスが大須商店街に人を呼び込むフックになれたらいいと思います。強くて、魅力的なグランパスになっていけるように頑張ります。


大久保 これだけ広い商店街ですので、さまざまな意見がありますが、まずはこの東仁王門通りから、グランパスを広めていけたらと思っています。今は大須商店街連盟の理事40名に、少しずつ理解が広がっているという状況だと思います。まだやれることに限りはあると思いますが、自分たちでできることはどんどん協力していきたいと思っています。「自分たちの手で作り上げる」という雰囲気がこの商店街にはありますし、それは意義のあることだと思います。そういった“手作り”の大須らしいやり方で、今後も一緒になって盛り上げていけたらと思います。