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【インタビュー】専務取締役清水克洋「ファミリーと共に」

49月

コロナ禍で置かれた苦しい状況をグランパスファミリーと共に乗り越え、クラブが歩みを止めることなく、未来に向かって進化していくため、グランパスは8月20日から「名古屋グランパス クラウドファンディング ~ファミリーと共に乗り越えよう~」を実施。9月4日時点で1278人の支援者が集まり、目標の約40パーセントとなる支援金が募られている。クラブの現状やクラウドファンディングについて、専務取締役の清水克洋に話をうかがった。

 

インタビュー・文=INSIDE GRAMPUS編集部

 

ークラウドファンディングを始めることになった経緯を教えてください。

清水 新型コロナウイルスの流行により、今シーズンのJリーグは2月末から中断されました。当初は1、2カ月で再開するという見立てもありましたが、開催できない期間が長引き、最終的にJ1リーグが再開したのは7月4日。クラブ経営にとって根幹となる試合そのものが長い間開催できない状況で、それによる影響、そしてその中でクラブとしてどのようなことができるかを考えていました。

 

クラブ全体では今期予算に対して、14~19億の減収を見込んでいます。マイナスをカバーするため、コスト削減や身を切る努力も実施をしながら、それでも穴が埋まらない規模感です。これまでのやり方にとらわれない様々な取り組みもやっていかなければいけないという認識の中で、クラウドファンディングという形でファン・サポーターの方に直接ご支援を呼び掛けさせていただくことになりました。

 

ークラウドファンディングという手法を取った理由は?

清水 ファミリーの皆さんにも、文字どおり「家族」として、まずはクラブがこういう状況にあるということを知っていただきたいというところが最初です。家族なので、楽しいこと・幸せなことだけでなく、辛いこと・苦しいことも、まずは隠さず伝えたいという思いです。その上で実際にご支援をいただけるかどうかは、ファン・サポーターの皆さん自身や、皆さんがお勤めの会社もさまざまな影響を受けていたり、支援することが難しいという方もいらっしゃると思います。可能な方、ご賛同いただける方に参加いただければ、それだけで大変ありがたいと思っています。

 

クラウドファンディングは、ファン・サポーターの方に直接お願いする形です。「パートナー企業に大企業がたくさんいらっしゃるから大丈夫でしょう」、という声も時々いただきますが、今回、あえて直接の支援をお願いしている形です。パートナー企業、ファン・サポーター、ホームタウンという、3つの大事なステークホルダーと一緒に進んでいきたいと考えていますし、それがクラブのあるべき姿だと思っています。3つのどれかだけに支えられているクラブというのは不健全ですし、苦しい時は常にパートナー企業だけがどうするか考えている、ではなく、あえてファミリーの皆さんに知っていただきたいという思いで、呼び掛けをさせていただきました。


ー売上減少の内訳について教えてください。

清水 14億円から19億円の売上減の中で、一番大きいものは入場料収入です。ご存知のとおり、リーグ戦中断以降、無観客での試合を経て、上限5,000人もしくは50パーセントという形でリスタートできる形となりました。昨シーズンのリーグ戦で平均27,000人がお越しくださっていましたので、現状の5,000人収容であればその20パーセント、直接的な影響を受けるのが入場料収入になります。また、入場者数に比例して、スタジアムでのグッズ販売や飲食販売も減ってしまう形になります。この辺りの収入が減ることで、14億から19億の内訳の大半を占める形になります。


ー14億円から19億円の売上減は衝撃的な数字です。「クラブ存続の危機」という言葉も小西社長のメッセージとして発信していますが、このインパクトについてどのように捉えていますか?

清水 グランパスは年間予算約70億円で運営しております。70億円の中の最大19億円というのは約27パーセントを占めるので、存続の危機というのは決して大げさな表現ではなく、簡単に解決策が見つけられる規模ではありません。また、「プロスポーツを楽しんでいただく」という価値観が新型コロナウイルスの影響で大きく変わっているのではないかと思います。「グランパスというチームがサッカーをして、皆さまに何をお届けできるのか」という意味も問われていると思います。

 

ーグランパスは経営規模が大きく、経営基盤も安定しているクラブです。それでもクラウドファンディングに頼らなければいけない状況なのでしょうか?

清水 今回、スタジアムの収容数という根っこの部分に制限をかけざるをえない状況ですので、逆に元のクラブ規模が大きければ大きいほど、経営的なマイナスも大きくなる形かと思います。他のクラブの方とお話をしていても、同様の状況で、規模が大きいからこそ、難しい面もあると思います。

 

一方、基盤という意味では、パートナー企業様には、有形無形のさまざまなサポートもいただいています。例えば、選手寮での感染のリスクを減らすためパートナー企業でお持ちの社員施設で一時的に選手が生活できないか相談に乗ってくださったり、あるいは個人の方同様にシーズンシートの寄付を申請くださったり。各クラブも企業、個人、様々なご支援を模索していると思いますが、クラブの大小を問わず、この状況をどのように乗り切っていくか、あるいはこの状況の中でどのようにサッカーを楽しんでいただくか、大きな課題だと思います。


ー今回のクラウドファンディングで集まった支援は、どのように活用していくのでしょうか?

清水 新型コロナウイルスの影響で経営の状況が大きく変わっていますが、それでも、グランパスが目指すのは、強いチームになること、世界で戦えるチームになること、その目線はぶらさず、今年も、来年以降も目指していきたいと考えています。新型コロナウイルスで受けているダメージをどうカバーできるか答えを出し切れていない部分もありますが、クラウドファンディング以外の方法も引き続き模索しながら、皆さまからいただいたご支援は、すべて、強いチーム・世界と闘えるチームを作っていくために活用していきたいと考えています。

 

ー開始から約2週間で目標額の約40パーセントとなる支援が集まっています。現在の支援状況についてどのように捉えていますか?

清水 はい、当初の想定を大きく上回るご支援をいただいていて、驚きと共に感謝の想いです。クラウドファンディングという取り組み自体が初めてなので、「本当にご支援いただけるのかな」というレベルから不安もありましたが、金額のみならず、1,000人以上の方がご支援してくださっている状況で、本当にたくさんの方からの思いに、心から感謝しています。

 

ー「未来を拓くクラウドファンディング」をテーマとして掲げています。支援は今期の補填という短期的な意味合いだけでなく、中長期的な部分も見据えているのでしょうか?

清水 新型コロナウイルスの先行きが不透明な部分があると思いますし、今期の経営的なダメージも単年の対応でまかないきれない規模感です。そうした意味ではクラウドファンディングのご支援について、今期の穴埋めだけではなく、強いチーム、世界で闘えるチームを再構築していくために必要なものです。いただいたご支援を、グランパスがまた続けて上を目指して戦っていけるように活用させて頂きたいです。

 

ー「withコロナ」、「afterコロナ」において、スポーツの世界はどのように変わっていくと考えていますか?

清水 変わる部分と変わらない部分の両方があると思います。一定の制約がある状況ですので、スタジアムにお越しになれない方にもどのように楽しんでいただくかということは変わる部分です。新型コロナウイルスが収束の方向に向かって、また満員になった熱狂的なスタジアムの雰囲気を感じていただけるのを楽しみにしていますが、その日がいつになるかは、今はわかりません。今は、今までと違う形で試合をご覧になっているファミリーの皆さんにもスタジアムの楽しさ・感動を感じていただく、そうしたサービスや取り組みをどんどん実施していかなければいけないと思っています。

 

一方で変わらない部分は、グランパスで言うと強いチーム、世界で闘えるチームを目指すことだと思います。ピッチの中で目標に向かってチャレンジを続けていく中で、時には思い通りにいかないことがあるかもしれませんが、ファミリーの皆さんと一緒に戦って、喜びや感動を共有すること、その部分は、Stay HomeでもAfterコロナでも、どんな状況でも変わらない部分かなと思います。皆さまと共にこの状況に立ち向かい、大きな目標を成し遂げたいです。