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【インタビュー】阿部浩之「挑戦の幕開け」

152月

新たな環境。

新たなポジション。

試行錯誤の日々はすべて、

目の前の勝利のために。

すべてを勝ち取った男の

新たな“挑戦”が幕を開ける。


インタビュー・文=INSIDE GRAMPUS編集部

※沖縄キャンプにてインタビューを実施。




チーム始動から約1カ月が経過しました。グランパスというクラブ全体の雰囲気やチームの雰囲気はかなりつかめてきたのではないでしょうか?

阿部 いや、まだまだですよ。ほぼずっとキャンプで、名古屋にはほとんどいませんでしたから。今は慣れることで精一杯です。練習メニューに関しても、経験したことのないようなことばかりですしね。例えば、素走りや11人を並べての戦術練習はあまりしてこなかったメニューの一つです。今後変わっていくのかもしれませんが、今は試合に近い練習があまりないので、足りない部分は個別でもっとやらないといけないかなと思っています。


足りない部分というのは、相手がいる状況でのトレーニングということでしょうか?

阿部 そうですね。もっと自分たちで頭を使ってやらないといけないかなと。相手を想定したリアリティーのある練習をしていかないと、本番で使えることが少なくなってしまう。僕も含めて、相手を想定してトレーニングする部分は意識しないといけないですね。結局のところ、練習がすべてなんですよ。練習でやっていないことを試合で出すことはできないので。


コンディションの上げ方も新たな経験だったのですか?

阿部 そうですね。僕はどちらかというと試合で上げるタイプです。距離とスピードを変えて素走りで調整するやり方ではやってこなかったので、未知数だし、正直不安もあります(笑)。でも、信じてやるしかないですし、悪い状態というわけではありません。むしろ溜まった疲労が抜けた時にどういう状態に仕上がっているか、どれほどキレが出るかが楽しみです。加えて、シーズンに入ってしまえば試合で合わせられるので、コンディションについては問題ないと思っていますよ。

改めてチームとして取り組んでいるサッカーについて教えてください。

阿部 攻撃も守備もアグレッシブにプレーする、ということはチームとして目指しているところです。そこは全面的に出していきたいですし、ストロングポイントとなるいい選手がそろっていますよね。アグレッシブな部分はガンガン出せていけたらと思います。それにプラスアルファで苦手なこともできるようにならないといけないですね。今のうちからやれることを増やしていく必要もあると思っています。


アグレッシブな攻撃がベースに、どの局面でも対応できる力をつけていきたいと。

阿部 そうですね。やっぱり勝つチームはどんなこともまんべんなくできるものです。それができないと勝ち続けられない。なので、チームとして全部できるようになりたいですね。速攻もできれば遅攻もできる、前からプレスを掛けることも引いて守ることもできる。そういうふうになっていかないとチームとしての深みは出ないし、長いシーズンを乗りきれないと思っています。


キャンプを通して、目指すサッカーの形はある程度見えてきましたか?

阿部 前からアグレッシブに守備をしている時に関してはそこそこの手応えがあります。ただ、攻撃が僕の中ではまだしっくりきていなくて、改善点がまだまだありますね。サッカーは点を取らないと勝てないスポーツ。もっと攻撃に重きを置きながら、改善していければいいと思っています。


移籍の決め手として「挑戦」を挙げていました。新たな挑戦のスタートはいかがでしたか?

阿部 難しいですね。やはり移籍したての頃は苦労します。まだその段階ですし、ましてやポジションが慣れ親しんでいる場所じゃない。このポジションにボールが入った時にどれだけスピードを上げられるかが大事ですし、上がらないとゴールは取れない。毎日、「難しいな」と思いながらやっていますが、それも含めての挑戦です。これをものにできた時の達成感はすごいだろうなと、ワクワクする気持ちもありますね。とはいえ、今は苦しんでいい時期だと思っています。簡単にいろいろな問題をクリアできるようなら、挑戦とは言えないので。苦しみつつ、自分の引き出しを増やしていければと思います。


「難しい」と感じる部分はどのようなことでしょうか?

阿部 なにもかもですよ。サイドだったらプレーの引き出しはあると思っているので、違う環境でもやりようはあると思うけど、中央での引き出しはまだ多くないから。ちょっとしたミスもごまかせないですし、細かなポジショニング一つをとっても難しいですね。戦術も違えば選手の特長も違う。周りのこともインプットしながら未体験のポジションでプレーしているから、普段の2倍は難しいですね(笑)。


タッチラインを背負ってプレーするのとは感覚が違いますよね。

阿部 全然違います。考えるスピードも今までとは比べものにならないくらい速くしないといけないですし、味方の状況やスペースをすべて頭に入れておかないといけないので。すごく難しいポジションですけど、その分やりがいもすごくあると思っています。本当は味方に使ってもらって自分で点を取るのが一番です。でもこのポジションではうまく味方を使うこともできないといけない。自分がストライカーになることもあれば、チームをうまく回すために泥臭いこともやると。そういう難しさも承知の上での挑戦なので、もっともっと成長してプレーの引き出しを増やしていかないといけないと思っています。




味方へのコーチングがきめ細かく、常に頭を動かしながら広い視点を持ってプレーをしている印象を持ちました。プレーの技術や感覚だけに頼らず、立ち位置や味方の動かし方を意識するようになったのはいつからなのでしょうか?

阿部 うーん、いつでしょうかね……。高校か大学くらいかな。個の能力がほかの選手よりない分、頭を使ってプレーしないと勝負できなかったので。きっかけはそういうところからですけど、特に意識し始めたはフロンターレに行ってからですね。ガンバの時は周りの選手が僕をうまく生かしてくれていたので、自分は自分の仕事に集中する感じでした。もちろん、余裕が出てくるにつれて周囲への気配りはできていましたけど、結局ゲームを作っていたのはヤットさん(遠藤保仁)。ガンバ時代はそこまで考えていませんでしたが、フロンターレに行って初めてヤットさんのゲームをコントロールする力の凄さに気づくことができました。中盤でコントロールしないとチームはうまく回らないですし、そういう能力が自分にも必要なんだと思って、意識するようになりました。フロンターレには(中村)憲剛さんがいましたけど、憲剛さんはもう一列前だからヤットさんとは少し違う。僕はサイドハーフでしたけど、そこからやれることはやってきたつもりです。しっかりとできているのか、本当に正解なのかわからない時もありましたけど、思ったことは言うようにしていました。それで失敗もしたし、「あ、こうやったらこうできるんだ」という成功体験もあります。その積み重ねで少しずつゲームをコントロールできるようになってきたのかなと思います。


自分で気付いたことが大きかったのでしょうか。

阿部 ヤットさんとかコンちゃん(今野泰幸)とか憲剛さん。そういうすごい選手を見ながら、自分で学んだという感じです。「ここをどうしたらいいですか」と聞いたことはなくて、「あの人たちはそういうふうに考えていたのかな」って。自分で勝手に考えて、実践するようにしていました。


「遠藤選手や今野選手、中村選手のような役割をグランパスで果たす」というのも挑戦の一つなのではないでしょうか?

阿部 いや、そのようには考えていません。それよりも、そういう選手を周りに増やしたいという想いがあります。例えば、ボランチの(米本)拓司とか(稲垣)祥とか。ジョアン(シミッチ)はそういう感覚を元から持っていると思うから。ボランチがしっかりしていれば、90分間のゲームメイクは簡単になる。そのために周囲を巻き込めたらと思っているので、ボランチの選手とはよく話をするようにしていますし、向こうからも積極的に話してくれています。でも、ボランチだけではダメですし、チーム全体でゲームコントロールの意識が必要ですね。試合が始まればそれぞれと話す機会はより増えてくると思うので楽しみにしていますよ。


阿部選手のプレーを見ることで伝わる部分もありますよね。

阿部 そうですね。でも、一方通行のコミュニケーションは一番良くないんです。向こうから言ってきてくれるほうが、お互いに理解しやすいと思うので、言い合える関係を築きたいですね。特に拓司と祥には吸収力があるし、聞いてくれるし言ってくれる。いい関係を築けていると思いますよ。


実際に、阿部選手の加入によってコミュニケーションの質が変わったと言っていた選手もいます。

阿部 まだ全員としっかり話せているわけではないですけど、試合が始まれば具体的な話もできますし、全員にとってより良いコミュニケーションができると思います。いいコミュニケーションの先にいいプレーができると思うので、わからないことはお互いに聞いて、すり合わせていけたらいいですね。お互いに違う考え方でやっていたら、ずっと合わないままですから。


「ピッチ上の指揮官」のような役割も期待されているのかなと思います。理想のリーダー像はありますか?

阿部 ないですね。僕はリーダーになりたいとは思っていないので。そういう役回りの人はいるから、僕はたまに口を挟むくらいで好き放題やれたらなと思っています(笑)。むしろ、中心になるような選手が下から出てこないとダメだと思うし。そういう選手を育てるじゃないけど、どんどん巻き込んでいけたらと思っています。フロンターレ時代は言いにくいことも言ったりして、僕より下の選手を巻き込んでいったからこそ、しっかりやれる選手が増えていった。フロンターレではそういう手応えを得ることもできました。グランパスでは移籍して来たばかりで、まだなんでも言えるわけではないですが、チームがより良くなるのであれば言っていきたいと思っています。


人を巻き込んで組織を作る、という部分に関して、指導者に興味を持っていたりもするのでしょうか?

阿部 興味はありますけど、ライセンスの取得とか人前で話すのとかが面倒くさそうで(笑)。「できるやろ」っていう変な自信はありますけどね。これから先のことはまだわからないですし、「やれたらやりたい」という感じです。ひとまず、自分が指導者を目指そうと思った時に、そのライセンス制度がなくなっていたらいいなって思います(笑)。




名古屋グランパスの選手として過ごしてきた中で、クラブの規模や存在感をどのように感じましたか?

阿部 さまざまなところで規模の大きさを感じましたね。施設面や入場者数から見てもビッグクラブだと感じます。苦しい時期でも変わらず応援してくれるサポーターがいるのは、選手として心強いですね。これで結果を残していければ、試合を観に来てくれる人ももっと増えてくるだろうなと。クラブの取り組みと比例して、ピッチでも結果を出していかないといけないなと思います。


事業面の取り組みにも興味はあるのでしょうか?

阿部 めちゃくちゃ興味がある、というわけではないですけど、そういう取り組みも大切なことだとフロンターレで学びました。まだ知らない部分がたくさんあるので、クラブがどういう働きかけをしているかはこれから徐々に見えてくると思います。クラブスタッフが必死に頑張っていることはわかっているので、結果につながるならやれることはやりたいと思っています。とはいえ、サッカークラブである以上、勝つことが大事。僕はそれを一番に考えてやっていきたいですね。観ていておもしろくない試合、勝てない試合では楽しく帰れないと思いますから。


「誰かのために勝つ」ということもモチベーションとなっていると。

阿部 一番は自分のためですけどね。自分が一番楽しいと感じる瞬間が勝った時だから。まずはそれを求めた上で、周りの人たちも楽しんでもらえたら文句なしですよね。それに、スカスカのスタジアムより満員のスタジアムのほうがやっていて楽しいですし、声援が多くて盛り上がっているほうが楽しい。僕らが頑張らないとそうはならないですよね。だから、自分のために勝ちたいし、満員のスタジアムでやりたいから勝ちたい。その延長線上でみんなが喜んでくれたり、どんどん人が集まってきたりするようになると思います。


サッカーの面でも事業の面でも、試合に勝つことで成長していけると。

阿部 そうですね。試合で勝つことが一番大切。チームも強くなっていくし、クラブの営業成績にもつながるし、サポーターも増えると思うし。ガンバやフロンターレで感じたことなのですが、タイトルを取った時にこそ伸びしろが見えるんです。だから、勝たないとクラブは大きくなっていかないと思っています。そういうことは、今になってようやく考えられるようになりましたね。


「挑戦」を掲げたシーズンがいよいよ始まります。グランパスファミリーの皆さんへどのような姿を見せていきたいですか?

阿部 今までと変わらず、攻撃でも嫌な選手でいたいし、守備でも嫌な選手でいたい。そして大事なところでは点を取る、というようなプレーヤーになれたらいいなと思います。今までやってきたことをガラッと変えようとは思ってないので。これまでに相手として嫌だと思われていたら、そのままのプレーをしたいと思っています。ポジションは変わるかもしれないですけど、自分のやるべきことは変えずにプレーしたいですね。


最後に、今シーズンに懸ける意気込みを教えてください。

阿部 優勝を目指さないと楽しくないし、そこを目指して取り組んでいます。優勝するため、目の前の1試合に勝つために、得点を取るといった大事な仕事ができればいいですね。1試合1試合の積み重ねでいいシーズンが送れると思うので、目の前の試合を大切にして頑張っていきたいと思います。