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【小西工己社長連載】グランパスとともに世界へ(第3回)

3112月

2017年4月の社長就任以降、小西は「世界に通じるクラブにする」という想いの下、グランパスの陣頭指揮を執ってきた。

クラブ経営の内側に迫るべく、『INSIDE GRAMPUS』では、連載企画として小西のインタビューを敢行。

第3回では、経営視点による2018年の総括と来シーズンの展望をテーマに話を聞いた。



2018シーズンを終え、率直な感想を教えてください。

小西 チーム成績ということに関しては、すごく大変な1年だったと思います。事業も含めてトータルで見れば、躍進の1年になったのではないかと思いますね。


チームにとっては非常に苦しいシーズンになりました。どのようにチームを見ていましたか?

小西 特に前半戦は苦しみましたが、それでも「グランパスはやれるチーム」だと認識していました。5月20日の柏戦後に「2年前の悔しい思いは決して繰り返しません」と言ったのは強がりではなく、私自身本気でそう思っていました。もちろん、プロセスは大変でしたよ。ただ、私の考えが揺らいだことは一度もなかったです。「それは本当か?」と、いろいろな人から言われましたけどね(笑)。


考えが揺らがなかった理由はどこにあったのでしょうか?

小西 プロセスも含めて、「力強さのあるチームになっている」という自信があったからです。風間(八宏)監督がやろうとしているサッカーを、私は理解しています。J2で戦った昨シーズンも穏やかな道のりではなかったですよね。リーグ戦という長丁場の戦いを終えて一発勝負の2試合があり、その中で成果を出しました。多くのものを積み重ねた上でJ1復帰を手にしました。今年5月の段階で、チームの力を発揮できていなかったというのは事実です。昨シーズンから選手が変わったことによる変化、チームとしての成熟度が足りていないという側面はあったと思います。しかし、トータルで34試合を終えた時には、必ず巻き返すことができているという自信がありました。

どのような想いで中断期間を迎えたのでしょうか?

小西 選手たちのコンディションは上がりつつあると感じていました。特に今季から加入したジョー選手は、元ブラジル代表、そして昨シーズンのブラジルリーグ得点王という片鱗を見せ始めていましたよね。ワールドカップによる2カ月の中断期間でチームとしてしっかりと準備ができれば、「化学反応の起こるタイミングがやってくる」と思っていました。それに、新加入組が加わった飛騨古川キャンプでのトレーニングを見た時に、「また動き出したな」という感覚も覚えました。5月20日に感じていたことが現実になりつつあると。だからこそ、後半戦の初戦、広島戦がすごく楽しみでしたよ。試合は0-0でしたけど、「これはいける」と確信したんです。その後の仙台戦から7連勝を果たし、見事に巻き返してくれました。


後半戦で勝ち点を重ねたチームは、J1残留を懸けて12月1日に湘南との最終節に臨みました。当日の心境を教えてください。

小西 不思議ですけど、J1に残留できると思っていたんですよ。0-2で前半を終えた時は多少の不安がありましたけどね(笑)。でも、後半にジョーが1点を返した時に「いける」と感じたんです。試合は2-2で終了し、他会場の結果が入ってきていない段階でも、「このまま終わるわけがない」と何か起こりそうな気がしていて。私自身、「努力は嘘をつかない」と信じて止まない人間ですから、「これだけのプロセスがあれば、必ずご褒美があるはずだ」とね。サッカーの勝ち負けに“絶対”がないのと同じように、根拠はないですよ。努力のプロセス、そして試合でどれだけ力を出すことができたか、それによって結果が出るだけですから。それが風間さんの言う「大きな試合も小さな試合もない」ということです。だからこそ「ここまで頑張ったんだから」と。そういう意味で絶望感というのはありませんでした。


それは「やりきった」という自負があったからこそ生まれた感覚だったのでしょうか?

小西 そうだと思います。試合が終わり、エレベーターに乗っている時にスタジアムのざわつきが聞こえて、「もしかして」と思いました。1階に下りたら選手が喜んでいるのが見えて、J1残留を達成できたのだと悟りました。セレモニーでの挨拶に関してはまったく考えていなかったんですけど、「とにかくサポーターとの約束を守ることができて良かった」という想いから、「5月20日のお約束、ここに完結しました」とお話しさせていただいたんです。J1残留というのは、まさに積み重ねが生んだものだったと思いますよ。それにしても、まさか勝ち点41で5チームが並ぶとはね(笑)。本当に大変なシーズンでした。5月の段階で勝ち点40が一つの目安だと思っていて、そこに到達できるイメージもありました。ただ、まさか「41」で並ぶことになるとは思っていなかったです。


チームが苦しみながらシーズンを戦い抜いた一方で、事業サイドの活躍ぶりについてはどのように評価していますか?


小西 本当に素晴らしい成果を挙げてくれたと思います。チームと事業というのは表裏一体です。事業の頑張りが選手に伝わり、それに選手が応える。それを見たお客様がまたスタジアムに足を運んでくださる。そういう循環が確実に起こるようになったシーズンだったと思いますね。また、「強く、見て楽しいサッカー」はもちろん、「町いちばんのクラブ」というプロセスもすごく大事です。トレーニングを終えて疲れている中でも、チーム、選手はいろいろな活動、イベントに協力してくれました。これはチームが事業に対して理解を示してくれたからこその結果でもあります。そして、「町いちばんのクラブ」になろうとするクラブの強い意思、姿勢を、お客様は見てくれていました。それによってたくさんの方がスタジアムで観戦してくれたのだと思います。チームと事業部が渾然一体となり、スパイラルアップの基礎を固めることができたシーズンでした。


事業サイドによる様々なプロダクトアウトがあった上での結果だったということですね。

小西 すごく頼もしく感じています。ただ、「最終節で来シーズンのユニフォームを着る」というアイデアには驚かされました。これはボトムアップで出てきた案なんですよ。あとからですけど、いろいろな人からネガティブな意見も聞きました。「もし、J1残留をすることができていなかったらどうするんだ」、「降格した場合、その雰囲気を引きずったまま来シーズンを戦うのか」と。当然、やると決めた時にそういった懸念も頭の中にはありましたけど、ネガティブな結果になるとは思っていなかったんです。これは理屈ではなく、もはや信じるか信じないかという話なんですけどね。日頃の選手たちの姿勢だとか、事業サイドの働きを見ていたら、「大丈夫だろう」と感じていました。ですから、チームや事業の意欲の表れであるユニフォームを最終節で披露し、来年の素晴らしいサッカーの予告編にしようと。このアイデアを出してきて、実行した事業は大したものだと思います。


事業サイドの成長を強く実感する1年でもあったと。

小西 そうですね。事業サイドにも「新しいことをやってなんぼ」という風潮が根付いてきたと感じています。「前年と同じ」では、私の決裁が下りないことを理解していますから(笑)。とにかく新しいことをすることが大事なんです。僕は「やるな」とは絶対に言いませんしね。もちろん、唯我独尊ではなく、お客様やパートナーの方々が楽しむ姿を想像した上でのことですよ。ただ単に新しいことをやるのでは意味がありません。つまり、ビジョンが見えているかどうかということです。ビジョンというのは、映像が頭に浮かぶこと。ターゲットやゴールというのは、数字で表すことができますけど、ビジョンは違います。「こういう状況がスタジアムにあったらうれしい。そのためにどうすればいいんだろう」と考え、想像することがビジョンなんです。「4万人がデザイン性のあるコレオグラフィーを掲げたらどうなるんだろう」と考えるだけで、事業サイドのメンバーは楽しめると思うんですよ。そうなると、多くのアイデアが出てくるものです。延期開催となった第18節札幌戦での『グランパスハッピーハロウィーン』もそのうちの一つですよ。スタジアムでお菓子を配布することになり、いろいろな企業にご相談をした結果、たくさんのご協賛をいただきました。当初の目標は3万個だったのに、結果として8万個以上のお菓子が集まったわけです。それもやはり、お菓子を笑顔で頬張るお子さんの笑顔が映像として頭に浮かんだからこそ、実現したわけなんです。事業において、一人ひとりがそれぞれの立場でビジョンを描くことが徹底されてきました。手前味噌ですが、これは本当に素晴らしいことだと思います。


チーム、事業が一体となったこともあり、2018年のリーグ戦平均入場者数はクラブ歴代トップの24,660人を記録しました。

小西 素晴らしいことですよね。24,660人という数字は今季のJリーグにおいて3位となる記録です。パロマ瑞穂スタジアムにも豊田スタジアムにも、本当に多くのお客様が足を運んでくださいました。また、私が掲げていた「2018シーズン主催試合で40万人の方にお越しいただく」という目標も大幅に超えています。本当に素晴らしい成果だと思います。



2019年は小西社長が就任されて3年目となります。どういったシーズンにしていきたいですか?

小西 今シーズンに記録した数字をすべて更新するのは大前提です。前年の自分を抜く、これが“成長”ですから。事業だけでなくチームの順位に関してもそうですよ。15位という結果に満足しているわけがありません。上位争いができるような体制を作っていきますよ。上位を狙えるような戦いを毎試合することができれば、結果的に上位でリーグ戦を終えることになります。チームには期待していますし、必ずやってくれると思っています。


チーム強化において「3年が一つのサイクル」と言われることも含め、チームへの期待感がより高まるシーズンになります。

小西 もっとおもしろい、もっとワクワクするサッカーをお見せします。先ほどお話ししたように、すべての記録を更新するためには、やはりもっとおもしろいサッカーをしなくてはいけませんよね。その結果としてチームが上位に進出する。これはしっかりと達成したいです。


事業サイドにとっても勝負の1年になりますね。

そうですね。2018年は本当に多くのお客様にお越しいただいたので、入場者数に関して大幅な増加を見込むのは難しい部分もあります。あとはファンクラブやチケット、グッズといったところでの数字を伸ばしていくことです。できれば大幅に超えていきたい、ジャンプアップしたいですね。


2018年は「ガールズフェスタ」をはじめ、様々なスタジアムイベントを開催しました。来年はどのような企画を計画しているのでしょうか?

小西 来年は街を挙げてグランパスを盛り上げていく企画『鯱の大祭典(仮)』の実施を予定しています。私自身、名古屋にはまだまだ力があると思っています。グランパスのユニフォームを着て、街を歩いている方ってなかなかいないじゃないですか。それが「格好いい」、「楽しそう」と思ってもらえるようになれば、「自分もユニフォームを着てみたい」と思う方が増える。そうなると「ユニフォームはいくらなんだろう」と考える方が出てくるでしょうし、8月11日の鹿島戦で配布したような限定ユニフォームが格好いいと思ってもらえれば、「試合に行ってみよう」となるかもしれない。名古屋市や豊田市、みよし市だけでなく、愛知県を巻き込んで「スタジアムに行ってみたい」という連鎖、化学反応を作ることが『鯱の大祭典(仮)』を開催する一番の目的です。


クラブが重きを置く“一体感”をより強く、広めていきたいということですね。

小西 はい。来年は試合日だけでなく、試合日の前後でも実施していけるような企画を考えています。これは“時の文化”です。個人の旅行は日程を決めれば実現できますけど、サッカーの試合はその時にしか体験できません。その時を目指し、その場にどう来ていただくか、その場でどう楽しんでいただくか。それが知恵の出しどころです。もちろん、メインイベントは90分間の試合です。その前後の時間における楽しみ方、サッカーを軸とした“時の文化”を前面に押し出していきたいと考えています。


近年は事業の取り組みに関する注目度が高まっており、来年のスタジアムイベントに期待する方々も多いです。

小西 最近はいろいろな方から、事業の内部、あるいは事業とチームのコミュニケーションについて話を求められることが多いです。もちろん、すべてオープンにしていますよ。それがサッカー界全体のためになりますから。他のクラブは競争相手ではなく協力者です。日本のサッカー人口が増えたほうがいいに決まっていますしね。そこでおもしろいサッカー、おもしろい事業をやるとメディアによる報道、情報が増えていき、グランパスを支える方々が増えるきっかけになるかもしれません。興味を持ってもらうということが一番重要だと思います。


改めてファン・サポーターにメッセージをお願いします。

小西 2018年は新たな取り組みを多く実施したシーズンでしたけど、来年はもっともっと新しいことに挑戦し、メインイベントである試合をさらに楽しんでいただけるような仕掛けをしていきます。チームに関しても総合力を上げて、もっと楽しいサッカーを見せられるようにしていくつもりです。しっかりと上位争いをできるようなチームに仕上げ、心置きなく楽しんでもらえるような1年にしたいと思います。この2年間で石垣を作ることはできたと思うので、いよいよ城を作らなければいけませんね。城を作って高いところに登ればまた新しい景色が見えてきます。そしてそれは、私が想像しているもの以上に素晴らしい景色だと思うんですよ。ファン・サポーターの皆さんと一緒に新しい場所から新しい景色を見て、我々が向かうべき方向を見つけられるようなシーズンにしたいと思います。楽しみにしていてください。