グランパスで指導者のキャリアをスタートさせ、トップチームコーチも務めた三木隆司。U-18監督という新たな道へ踏み出した今年、ここまでの戦いを振り返り、結果とともに選手の成長を目指す短期決戦へ向けた意気込みを語った。
インタビュー・文=INSIDE GRAMPUS編集
プレミアリーグWESTは前半戦が終わりました。ここまでの戦いを振り返っていかがですか?
三木 点はそこそこ取れていますけど、失点もそこそこしているという印象です。ただ、私自身がどう感じたのかよりも、選手がどう感じているかが一番重要です。力を発揮できた試合もあれば、なかなか発揮できなかった試合もあって、点数で言えば70点ぐらいかなと感じています。
もう少しできたと思う試合もあったのでしょうか?
三木 そうですね。負けた(サガン)鳥栖戦は勝負の分かれ道というか、決めるか決めないかというギリギリのところがありましたし、首位の大津高校、2位の(サンフレッチェ)広島との試合は内容的にも負け試合だったと思います。一人ひとりの根本的な力を上げないといけないと感じましたし、チームとしての力をもう1段階も2段階も上げないと後半戦は大変だなと思っています。
暫定3位は悪い位置ではないと思います。
三木 悪くはないですが、上の2チームに負けているので妥当な順位だと思います。
選手たちの成長についてはどう感じていますか?
三木 全選手、それぞれが少しずつ成長していると思います。でも、みんなが目標としているところはもっと上なので、少しの成長で「これでいいや」と思うことがないように、もっと貪欲にやれるように声を掛けていきたいと思っています。
チームとして成長したと感じているところは?
三木 チーム全体として得点を奪いにいくという姿勢は毎試合ありますし、ネガティブになることなくゴールに向かう姿勢は自然と出てくるようになっています。全選手の競争意識が高いので、ベンチに入るだけでも大変な状況で、メンバー入りは練習で自分の力を発揮してつかみ取ったものです。そういう意味では、選手同士が信頼し合えていますし、私も信頼して起用することができています。早めに交代カードを切ることも多いので、「みんなで闘っている」という意識があると思います。
それぞれがアピールをするなか、どういった基準でスタメンを選んでいるのでしょうか?
三木 もちろんみんな自分のためにプレーしますが、チームや仲間、応援してくれる人たちのためにやるべきことをやる、献身性を持ってやる姿勢も大事です。そういう選手は使いたくなりますし、チームメートもそういう選手を信頼しますよね。そういった信頼されている選手を使いたいと思っています。ただ、単純に元気な選手を出していい時もありますし、ベンチの選手もうずうずしているので、そういう選手も出してあげたいなといつも思っています。
杉浦駿吾選手に背番号10を着けた理由を聞いたとき、「みんなが認めてくれたから着けることができた」と話していました。
三木 そうですね。キャプテンもそうですし、2年生や1年生の代表もみんなの投票で決めたので、選ばれた選手は多くの信頼を集めている証ですし、選ばれた選手も責任を感じていると思います。選ばれた選手にはそういうものをヒシヒシと感じて、チームを引っ張っていってほしいです。
今年はいろいろな力、個性を持った選手がそろっていると感じています。
三木 選手それぞれ特長が違いますし、1年生も含めて本当にいい競争が生まれています。1年生は最初はなかなかチームに溶け込めていなかったですが、6月ぐらいからは自分らしい、いい動きを見せてくれることが増えてきました。1年生が力を付けてきたことは、上級生たちにとってもいいことだと感じています。
日本クラブユース選手権の東海大会では、1年生の千賀翔大郎選手がスタメンをつかみ取っていました。
三木 あのときは上級生にコンディション不良やケガをしている選手がいて、千賀の調子が一番良さそうだったので起用しましたが、しっかりとやってくれたと思います。ただ、千賀だけではなく、どの選手も入ったらやってくれる力を持っていると思いますし、だからこそグランパスのエンブレムを付けていると思います。ピッチに入った時にどれだけ目立って、自分らしさや違いを見せることができるかが重要だと思います。
選手たちには自分の力を出すことを期待したいですか?
三木 そうですね。サッカーは11人でやるものなので、1人の力でどうこうというのは少ないかもしれないですけど、個人の力を高めることが、チームが勝つ確率を上げる方法だと思います。選手全員が力をつけることが一番だと思います。
後半戦に向けて、どんなことを改善していきたいと考えていますか?
三木 もちろん、個人の判断の速さや正確性の向上は継続してやっていかないといけません。戦い方や試合の流れをもっと感じて、それを伝えてチームとして同じ方向を向いてやっていってほしいと思っています。それを全部こちらが言うのではなくて、選手同士で話して、ゲーム中に対応できるようになってほしいと考えています。
選手たちが主体となって、自分たちで考えてほしいと。
三木 これはいつも選手に言っているんですけど、自分で判断してほしいんです。それはピッチ内でも、ピッチ外でもそうです。私の意見を聞いているだけでは、たぶん将来苦しむと思います。例えば、私が言ったことをやるにしても、自分の意見を持ってやることが重要です。「監督や上司が言っているからこうしよう」となってしまうと、それが正しいのか間違っているのかが判断できないですよね。ですから、41人の選手が41個の意見を持てるようになってほしいと思っています。
自分の意見をぶつけてくる選手はいますか?
三木 もちろんいますよ。私も「ここはやってほしい」ということを言いますけど、サッカーに正解はないと思うので、しっかりと意見を言うことが大事です。私に対して言えない選手もいると思いますけど、全員が言えるようになってくれればいいなと思います。
三木監督はグランパスで指導者の道を歩み始め、U-15監督やU-18コーチ、トップチームコーチを歴任してきました。新たにU-18の監督に就任したことで、これまでとは違う感じ方があるのではないでしょうか?
三木 同じU-18でも監督とコーチは違います。それこそ古賀(聡・前U-18監督)さんや高田(哲也・元U-18監督)さんはすごく大変な仕事をしていたんだなと感じています。トップチームの長谷川健太監督も含めて、監督業はすごく大変だと感じています。
昨年までチームを率いた古賀さんが積み上げてきたものをどう感じていますか?
三木 古賀さんはブレずにチームを作っていたんだなと感じています。結果を出しながらも選手の成長をつかみ取ってきたと思うので、それは私も継続していかないといけない部分です。私たちの目標としては、選手をトップに上げることが一番なので、1人でも多くトップデビューする選手を出すためにはどうしたらいいのか、それをずっと考えているところです。
古賀さんは人間性の部分も重視していました。
三木 古賀さんもそうでしたけど、クラブとしても人間的な部分を大事にしているので、もちろんそういったところも成長させていきたいと思います。古賀さんは「先を見過ぎず、今できることに集中する」ということをおっしゃっていたので、そこはすごく大事だなと私も思います。トレーニング前後に自分自身と向き合う時間を作ることも大事だなと思っています。
試合後にはすぐに輪になってミーティングを行っていますね。
三木 あれは反省というよりも、選手がどう感じたかを話し合っています。チームにとって大事な時間だと思います。
アカデミーとして積み上げてきたものに、どんな色を加えていきたいと考えていますか?
三木 私の色を、というのはないですね。去年、一昨年と健太さんの下でコーチをさせてもらって、いろいろなことを吸収させてもらいました。トップに上げる確率を高めるためにどうするかが一番大事なので、3人のコーチとともにピッチ内で何が起きているのかもそうですし、ピッチ外の部分もしっかり見ていきたい。選手の個性を伸ばせるようにしていきたいと思っています。
長谷川監督の下で吸収したものとは?
三木 健太さんは選手をすごくよく見ているんです。プレーはもちろんですけど、様子までしっかりと見ています。あとは決断のところですね。大勢の観客がいるスタジアムでは声が通らないですし、ピッチ脇からでは試合をよく見れないですが、的確な判断をして決断するんです。それはなかなかできないことだと思います。
昨シーズンのルヴァンカップ準々決勝の鹿島アントラーズ戦で決勝ゴールを決めた吉田温紀選手の起用が象徴的ですけど、普段練習していないポジションでも采配が的中するのは、選手をしっかり見ているからなんですね。
三木 そうだと思います。練習で試していなくてもイメージを持っていたり、選手の特徴を踏まえたうえで決断を下すからだと思います。それに、その選手を信頼していないとその決断はできないので、「やってくれる」と期待しているんだと思います。
チームを率いる立場になって大切にしていることはなんでしょうか?
三木 ゲームで起こっていることをゲーム中に感じて、いい方向に変化させられるようにしたいなと思っています。選手も含めて試合後にはいろいろなことを言えますけど、ゲーム中に感じて手を打って、それがどうだったのかということがもっと大事です。それを選手の判断で共有できればいいなと思っています。
やはり自主性の話につながりますね。
三木 このメンバーでプレーできるのは今年だけですし、今後それぞれが別の道に進んでもトップに上がれる選手になれるように、と考えています。先日、杉浦駿吾のトップ昇格内定が発表されましたけど、今年上がれなかった選手でも次のステージでそれぞれが特長を出してまた帰って来られるような土台を作っていきたいです。
改めて、今年のチームの特長や強みを教えてください。
三木 ゴールに向かう回数が多く、ボール保持者だけではなくてボールを持っていない選手のゴールに向かうスピード感、人数が強みで、みんながそこを意識しているのが特長だと思います。サイドからもどんどん上がっていくし、人もボールもゴールに向かうようなスタイルだと思います。
明日、第48回日本クラブユースサッカー選手権U-18の初戦を迎えます。監督はこの大会をどう位置付けていますか?
三木 暑いから大変だろうなと(笑)。もちろん技術や判断も大事ですけど、メンタリティが試されるというか、気持ちの部分が大事になってくるんだろうなと思っています。プレミアリーグではない連戦でもありますが、その状況のなかで1歩走る、追い越す、ランニングでアクションを起こす、1歩戻るというところをやれるかやれないかで大きく変わってくると思います。
今年からレギュレーションが変わり、グループステージの1位のみが決勝トーナメントに上がれます。
三木 全員で闘うということに変わりはないですし、変えるつもりもありません。そのなかでいい選手というか、やる気に満ち溢れている選手を使いたいと思っています。
みんながやる気に満ち溢れていると思います。
三木 だから選手の選考に迷うんですよね。私としてはいろいろと考えることがありますけど、選手たちは「自分が出たい」と思っていますから。チームメートが認めて、周りからも認められて、自分が出た時に最大限のパフォーマンスを発揮する選手、献身性を持って結果を出せる選手を選んで、全員で闘いたいなと思います。
選手に求めることは?
三木 自信を持てるプレーを増やしてほしいです。より確固たる自信にしていく作業を繰り返して、試合でそれがより深くなるようにしていってほしいです。それは将来にもつながりますから。
先ほど挙がったように暑さや短期決戦という難しさがあると思います。どんなことが重要になりますか?
三木 試合時間が夕方になったので、去年までとは多少違うと思います。他のチームもゲームプランを変えてくる可能性があるので、そこを加味しながらにはなりますが、自分たちの戦い方としてはそんなに変わったことをやるつもりはありません。よりいいプレーを出せるように準備したいと思います。
選手たちも「やることは変わらず、全力でやる」と口にしていました。
三木 リーグ戦でも負けたからやり方を変えるということはやっていないですし、現時点ではそんなことは考えてもいないです。自分たちの良さを出して勝つ確率を高めていくというところですね。
注目してほしい選手はいますか?
三木 やはりトップチームが認めた杉浦駿吾ですね。彼には違いを見せてもらわないと困りますし、プロで活躍するための第一歩だと思うので、プレッシャーに打ち勝ってほしい。彼は慢心するタイプでもないですし、トップ昇格の発表をプラスの力に変えてくれると思います。その他にも、双子の西森兄弟(西森脩斗、西森悠斗)は、2人してU-12からU-18まで上がってくるというなかなかないケースだと思います。2人のコンビネーションはやっぱりいいですね。仲がいいなと思います。普段はあまり良くなさそうに見せていますけど、2人が一緒に出ている時は呼吸が合っていると思います。
監督の話を聞いて楽しみが増えました。
三木 この大会はピッチ外でも違う部分がたくさんあります。例えば、プレミアリーグではだいたい1泊ですけど、今回は何泊もするので時間がたくさんあります。そういう時にどう過ごすかが重要で、チームメートと何を話して何を吸収するのかとか、他のチームの映像を見て何を勉強するのかとか、そういうところがすごく大事です。その部分の成長も同時に見たいですし、楽しみな部分です。グループステージを勝ち上がればそういう機会も増えるので、ゲームで勝つことはもちろん、そういう成長の手応えも選手自身が感じてほしいなと思います。
クラブユースをどんな大会にしたいですか?
三木 選手たちが「本当にやり切った」と思える大会にしたいです。勝つことで達成感を味わえることもありますし、もし負けたとしても「100パーセントの力を出し切った」と言えるようにしたい。勝ってそういう気持ちを得られるのが一番ですけど、やっぱり一戦一戦、そういう気持ちを持ってやっていきたいと思います。
目標はいかがでしょうか?
三木 選手が優勝と言っているので、もちろん私も優勝を目指しています。