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【インタビュー連載(1/6)】中谷進之介「まだ見ぬ自分を、ただひたすらに」

2112月

不可能とも思えたハイラインの要求、

監督交代にともなう戦術の変化。

すべてを受け入れ、己と向かい続けた男は

34試合の中で幾度となく変貌を遂げてきた。

もがき苦しんだこの軌跡には、

消えることのない“価値”が詰まっている。


インタビュー・文=INSIDE GRAMPUS編集部

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今回のインタビューでは2019シーズンを振り返っていきます。今年のプレシーズンは新加入選手の存在もあり、激しいポジション争いからスタートしました。

中谷 もがいている時間が長かったですね。昨シーズンの途中から風間(八宏)さんのサッカーを学び、半年間の積み上げがあった上でプレシーズンに入りました。そのアドバンテージがあったにも関わらず、千葉(和彦)さんとの競争の中で、キャンプ中はサブ組に回ることが多かったです。僕としても、冷静さやビルドアップの部分で千葉さんとの違いを感じていました。ただ、焦りはなかったですよ。チームメイトとの比較というよりも、「いかにラインを高く保つか」という自分の課題とずっと向き合っていましたから。


今シーズンは、昨シーズンのサッカーをアップデートし、ハイラインとハイプレスによる「自分たちの枠に相手を包み込むサッカー」に挑戦。敵陣でのプレーを前提としたサッカーを突き詰めました。

中谷 3-9で負けた沖縄キャンプでのFC東京戦後から、ハイラインへの要求がより厳しくなりました。正直に言うと、最初は「なにを言っているんだろう」と、拒絶反応が出ましたよ(笑)。今までになかった考え方でしたし、「今、ラインを下げなかったらスペースにパスを出されて終わりだろう」と何回も感じていたので。ただ、風間さんは究極的なことを言うんですけど、それにトライしていくと、意外とうまくいくことが徐々にわかってきたんです。先発メンバーから外れたことで「もっとトライしてみよう」という気持ちになったことも影響していたと思います。自分の理解を超えた考え方なので、受け入れるのは簡単なことではありませんでした。でも、まずは受け入れて、トライしてみる。そういうメンタル面の変化があったプレシーズンでした。



開幕戦ではスタメンの座をつかみ取っています。

中谷 開幕までは1日ごとに主力組とサブ組をいったりきたりしていて、流動的な立場でした。開幕戦は結果こそ出ましたけど、個人としては全く良くなかったです。やりたいことがなかなかできず、試行錯誤しながらのプレーでしたから。(明治安田生命J1リーグ第2節)セレッソ戦も良くなかったですし、(リーグ戦第3節)ガンバ戦ではオウンゴールとPK献上というミスをしていますからね。あそこで試合に負けていたら、スタメンから外されていただろうし、こうやってフルタイム出場も達成できなかったと思います。途中交代で入った相馬(勇紀)とアーリアくん(長谷川アーリアジャスール)が流れを変えてくれたおかげです。今考えると、あのガンバ戦が個人的なターニングポイントだったのかなと思います。



どのようなことを課題として持ちながら闘っていたのですか?

中谷 この時期もプレシーズンと同じで「いかにラインを高く保つか」について試行錯誤していました。風間さんからは、「こちらがボールを持っている時や、相手がロングボールを蹴りそうじゃない時は、少しでもラインを上げよう」と言われ続けていました。ハーフラインまで上げても、「もっと」と要求してくるんです。怖くて仕方なかったですよ。だけど、やっていくうちに相手との駆け引きを覚えて、ロングボールを蹴られても僕が先に触れたり、前に出て潰せる場面が増えていきました。その駆け引きを覚えられたのは大きかったと思います。


リーグ戦第4節のFC東京戦では背後のスペースを突かれて失点し、今シーズン初黒星を喫しました。それでも、ラインを上げることへの恐怖心が強まることはなかったのでしょうか?

中谷 あの失点があっても、「ラインを下げよう」とはならなかったです。あれは僕とマルくん(丸山祐市)のラインがそろっていなかったことや、失点につながったボールロストが問題でした。ラインを下げることよりも、そういった細かいディテールに目を向けていましたね。決定機を何度も作られたわけではないので、むしろ悪くないというイメージのゲームでした。


ラインコントロールに関して試行錯誤する中で、どの試合で手応えを感じられたのでしょうか?

中谷 (リーグ戦第5節)札幌戦で「この戦い方でいけるな」という感覚が得られました。守備では相手にほとんど決定機を与えることなくハイラインを維持できていたと思います。攻撃でも4得点を取れたので、完勝と言える試合でしたね。アーリアくんのゴールをアシストしたのはセンターバックのマルくんでしたし、本当に全員が攻撃に関わっていました。


札幌戦では中谷選手の攻撃参加も目立っていました。個人としても攻撃に関わる手応えを得られた試合だったのでは?

中谷 インターセプトからそのままゴール前に顔を出すシーンがありましたね。インターセプトの回数は、これまでと比べて間違いなく増えたと思います。でも、「攻撃参加もできるんだ」という感覚をつかみ始めたのは(リーグ戦第6節)鹿島戦ですね。シャビ(ガブリエル シャビエル)のゴールをアシストしたシーンが大きかったです。アーリアくんにパスを出してからそのままサイドを上がってリターンを受けて、僕のクロスをシャビが決めてくれました。本当は中央に走り込んでいた(和泉)竜司くんを狙っていたんですけどね(笑)。ほかにも、(リーグ戦第15節)大分戦で「出して寄る」の連続からシュートまでいけたシーンがありました。これまでプレーしていたレイソルは立ち位置を大事にして、その範囲から出ることは多くありませんでした。でも、細かいところを崩していくのであれば、「出して寄る」動きは使えるなと感じることができました。



前半戦で印象に残っている試合はありますか?

中谷 (リーグ戦第7節)マリノス戦と(リーグ戦第12節)フロンターレ戦はお互いのスタイルがぶつかり合う好ゲームだったと思います。マリノス戦は両チームともにガンガン前にいくから、すごく速いテンポで試合が進んでいましたよね。DFの選手としてはハラハラしましたけど、同時にとても楽しかったのを覚えています。勝利の喜びとは別に、試合をしていて「楽しい」と感じたのはおそらくこの時が初めてです。フロンターレ戦では「自分たちもやれる」という感覚をつかめましたね。去年のフロンターレ戦は相手のプレッシャーに萎縮してしまって、全くボールを回せませんでした。でも、この試合ではビビることなく闘って、自分たちのサッカーができていたと思います。風間さんはこの時期に「相手は関係ない。すべては自分たち次第」と繰り返し言っていたんですけど、まさにその通りでした。それでも、左サイドでフロンターレに僕たちのハイプレスをかわされたシーンには、「この人たち、すごいわ」って思ってしまいましたけど(笑)。個人的にはハイラインの裏を突かれても対応できる自信をつかんだ試合でもありました。長谷川竜也選手が抜け出して、中村憲剛選手がスルーパスを出したんですけど、僕が左足でスライディングしてコーナーキックにしたんです。あのプレーは今シーズンの中でも特に印象に残っています。




しかし、第12節の川崎F戦以降は勝ち星から遠ざかることになります。歯車が噛み合わなくなっていった要因はどのあたりにあったと思いますか?

中谷 結果がついてこなくなったことで、少しずつ自分たちのサッカーが信じきれなくなっていったと思います。(第13節)松本戦は得点を取れずに、一発のカウンターでやられてしまいました。まさにポゼッション型のチームがやられる典型的な展開だったと思います。(第14節)仙台戦では攻守が噛み合わず、(第15節)大分戦は決めるべきところで決められませんでした。また、明らかに失点が増えているので、守備に問題があったのは間違いないと思います。一人ひとりが頑張ることを少しだけ怠っていたり、これまで効果的だった前線からのプレッシャーがハマらなくなってしまったり、負傷者が出たことでシステムの変更があったり。さまざまなことが重なり、チームとして迷いが生まれてしまった時期だったと思います。


チームとして、前にいく時と少し下がる時を合わせられなかった印象があります。

中谷 フロンターレ戦までの12試合で結果が出ていた要因は、ボールをつなぐことだけではなくて、ハイプレスとハイラインの効果が大きかったと思うんです。でも、前線からのプレスがハマらず、相手の攻撃に規制をかけられなければ、高いラインを保つのは難しい。ハマっていないのにラインを上げても、裏のスペースを使われてしまうだけですから。特に(第19節)セレッソ戦は相手のサイドバックにプレスが掛からず、いいようにサイドを使われてしまいました。「これまでのサッカーはどこに行ってしまったんだろう」という感覚でした。


第20節のG大阪戦では重心を後ろに下げた戦い方を選択しました。

中谷 そうですね。セレッソ戦の内容を受けて、まずは完全に引くという作戦をとりました。このあたりから、理想を追い求めるよりも目の前の勝ち点を取りにいくことが大事になってきて。チームとしてうまくいっていないのがわかっていたからこそ、なんとしてでも勝利して、状況を変えたかったんです。ただ、結果としては試合終了間際に追いつかれて引き分け。負けたような気分でしたね。


第22節の川崎F戦は3-0で勝利。しかし、その後に再び勝ちきれない試合が続きます。

中谷 フロンターレ戦はハル(藤井陽也)と「ハイラインをやるぞ」と決めて試合に臨んだんです。「俺とハルのところから、ある程度前に重心をかけよう」と。おそらく4バックだったこともあって、それがうまいことハマりましたね。でも、その戦い方を次につなげることができませんでした。




第26節の清水戦後にマッシモ フィッカデンティ監督が就任しました。「残留」というミッションがより明確になった出来事だったのでは?

中谷 そうですね。マッシモは守備の原則やチームの全員が勝利に向かって走ることなど、基本的なところを改めて教えてくれました。(第27節)広島戦と(第28節)大分戦で引き分けに持ち込めたことが、残留に向けて大きかったと思います。また、この2試合でマッシモの下でどのようなサッカーをするのか。それを理解することができました。


フィッカデンティ監督の就任後、中谷選手に求められることはどのように変化していきましたか?

中谷 自分の持ち場から大きく動かず、より中央を固める方向に変化しました。また、守備に掛ける人数が変わったので、僕個人に掛かる負担は確実に減ったと思います。今まではセンターバックの2人で守っていたところに、(宮原)和也や(吉田)豊くん、(太田)宏介くんのサイドバックがいて、ヨネくん(米本拓司)と(エドゥアルド)ネット、ジョアン(シミッチ)のボランチもいる。2人でやっていたことを6人から7人でやっているような感覚です。これまでと比べて試合後の疲労感は軽減されましたし、データとしてもスプリント回数が少なくなりました。


最終的にはJ1残留をつかみとりました。中谷選手にとってどのような1年になりましたか?

中谷 成長できた1年であり、苦しかった1年でもあります。前半戦の出来を考えるともったいなかったとも思いますし、最終的な順位に関しては不甲斐ないと感じています。本当にいろいろなことがあったので、感情の起伏は人生でもトップクラスだったと思います。それこそ、娘の誕生も2019年ですからね。サッカーを仕事として捉えるようになったのも今年の変化でした。




今シーズンはキャリア初のリーグ戦全試合フル出場を達成しました。

中谷 なんの価値もない、というのが正直な感想です。今シーズンのパフォーマンスで日本代表に入れたかというとそうではなく、チームとして結果を出せたわけでもない。2人の監督から信頼してもらった証ではあるかもしれませんけど、チームの成績を考えるとどこかでスタメンから外れてもおかしくなかったと思っています。もちろん、試合に出続けることができたのはハッピーなことですよ。でも、それとは別に24歳はもがいて成長する時期だとも思うんです。残留するためにもがくのではなく、プレシーズンのように自己の成長のためにもがき続けて、フルタイム出場ができたら良かったと思います。


厳しいシーズンを闘い抜いた中で、どのような成長があったと感じていますか?

中谷 理解できない考え方でも、まずは受け入れてみようと思えるようになったことが一番の成長だと思います。究極のサッカーを目指す風間さんの下でプレーしたことで目線を引き上げられたし、「自分はもっとやれる」と感じることができました。細かい部分で言うと、ディフェンスラインの上下で相手のプレーを制限するといった、守備の駆け引きは今シーズンで新たに学んだことです。また、考え方を受け入れるという意味ではマッシモの下でも同様です。残留争いの中で就任して、時間的な制約がありながらも、ミッション達成のためにさまざまなアイデアを授けてくれました。それをまずは受け入れてやってみる。そう考えられるメンタル的な変化が一番の成長でした。


今後に向けて、どのような課題を持っていますか?

中谷 個人としてフォーカスしたいのは、どれだけ成長できるか。どんな状況でも、自分に矢印を向けてトレーニングを続けていきたいと思います。チームとしては、もっと上を目指して進んでいきたいと思っています。グランパスにはこれだけ素晴らしいクラブハウスとスタジアムがあって、多くのサポーターやパートナーにも恵まれています。規模や地域性を考えると、残留争いではなく優勝争いをし続けるチームでなくてはいけないと思います。上位に居続けるチームにはそのクラブの色がありますよね。鹿島であれば選手が変わっても球際の強さやしたたかさは変わらないですし、フロンターレは数年間ボールをつなぐことを大事にやっている。マリノスもFC東京も彼らの色がありますよね。常に立ち返る場所があるチームが上位争いをしているのだと思います。グランパスも同じように、クラブの色を感じてもらえるような1年になればいいと思っています。