チームキャプテンとしてグランパスU-18を支え、目標の「頂点奪還」を達成。「縁がなかった」MVPという個人賞も獲得し、クラブユースサッカー選手権の歴史に名を刻んだ加藤玄が大会を振り返った。
インタビュー・文=INSIDE GRAMPUS編集部
第45回 日本クラブユースサッカー選手権(U-18)大会での優勝、おめでとうございます。一夜明けて、どんな気持ちですか?
加藤 試合後は優勝の実感があまり沸かなかったのですが、グランパスファミリーの皆さんや両親、友人たちからたくさんのメッセージをいただき、「頂点を獲ったんだな」と徐々に実感が沸いてきたところです。このチームが始動してから頂点を獲るという目標を掲げてきましたが、有言実行で優勝することができ、とても誇らしい気持ちです。
まずはグループステージですが、ヴァンフォーレ甲府U-18との初戦は後半アディショナルタイムに追いつかれ、1-1の引き分けに終わりました。
加藤 初戦が難しくなるのはわかっていたのですが、最後まで主導権を握れず、自分たちの良さを出せませんでした。PKによる1点だけで最後にやられてしまい、詰めの甘さや勝負弱さが出てしまった初戦だったと思います。すぐにチーム内で話し合い、ボールを奪いにいくこと、ゴールに素早く迫ることなど、自分たち本来の強みを再確認し合いました。
第2節、第3節は同じ高円宮杯 JFA U-18サッカープレミアリーグWESTに所属しているセレッソ大阪U-18、サンフレッチェ広島F.Cユースとの対戦となりました。
加藤 プレミアリーグWESTでも対戦経験があり、お互いの特長を把握している相手でしたが、C大阪U-18戦は早い段階で2得点を挙げ、自分たちのペースで進められました。少しずつ大会に慣れてきたこともあり、自分たちの良さを出せるようになってきた試合だったと思います。第3節の広島ユース戦は引き分けか、勝たなければ次のステージに進めない厳しい状況でしたが、粘り強く闘うことができました。結果的に引き分けましたが、「絶対にノックアウトステージに進むんだ」という強い思いが表れたゲームだったと思います。
グループステージ全体を振り返っていかがでしたか?
加藤 当初は3連勝での1位通過を目標としていましたが、3試合を終えた時点では自分たちが目指していたレベルからほど遠かった内容でした。自分たちの良さを出せた時間帯もありましたが、それ以上に自分たちの弱い部分が明確になったグループステージだったと思います。グループ2位での突破でしたが、もう一度、チームとしての戦い方を確認し、ノックアウトステージでは頂点に向かって突き進もうと全員の意思を一つにしました。
ノックアウトステージからは40分ハーフで試合が行われました。グループステージの35分ハーフとの戦い方の違いはありましたか?
加藤 今シーズンの開幕前からフィジカルトレーニングや走りにもこだわって取り組んできたので、10分延びても自分たちの強みが出せると思っていました。どのチーム相手にも走り負けない自信はあったので、試合終盤に得点を奪ったり、相手の足が止まったところで、自分たちがさらに圧力を掛けられたと思います。
その言葉どおり、ラウンド16の川崎フロンターレU-18戦では終盤、立て続けに2得点を奪い、3−1と快勝しました。
加藤 川崎U-18はボールを動かすのが上手なチームでしたが、僕らは能動的にボールを奪いにいく姿勢を見せ続けることができましたし、70分を過ぎてもアグレッシブに走れました。苦しい時間帯に勝負を決められたラウンド16の試合こそが今大会のターニングポイントになったと僕自身は感じています。
手の内を知り尽くしている広島ユースが準々決勝の相手でした。
加藤 対戦経験があるだけに、たしかに難しさはありましたが、条件は同じです。自分たちの特長を理解されている中で、いかにそこを上回っていくかが勝負のカギを握っていたので、自分たちが積み上げてきたものを信じて闘うだけでした。広島ユースも伝統的に勝負強いチームだったので、PK戦にもつれ込む厳しいゲームになりましたが、あきらめずに最後まで闘えたと思います。
準決勝の相手は関東の強豪、浦和レッズユースでした。
加藤 先制しながら79分に隙を突かれ同点とされましたが、それでも延長戦を含めた100分をとおして、自分たちが主導権を握って闘えましたし、いい形でゴールに迫れるシーンだったり、ボールを奪いにいくシーンだったり、自分たちの強みを発揮できた試合でした。延長前半に決勝点を挙げましたが、途中から出場した選手を含め、粘り強く延長戦を闘えたと思います。
そして決勝戦。北海道コンサドーレ札幌U-18は予想外のシステムで臨んできましたが、どのように対応したのでしょうか?
加藤 相手のシステムの変化に対し、僕たちがどのように能動的にプレッシャーを掛けていくのか。正直なところ、試合序盤はピッチの中では解決できず、後手に回ってしまい、自分たちの形を作ることができませんでした。それでも真鍋隼虎選手をはじめとしたアタッカー陣が「自分たちがやらなければ」という強い思いをピッチ上で表現し、もがき苦しみながらも、アグレッシブに前を向いて闘えたと思います。2−0でしたが、みんなで声を掛け合って一体となって闘った結果、優勝することができたと思います。
決勝はGK宮本流維選手がアクシデントで欠場。急きょ控えGKの川上翼選手が出場し、無失点勝利に貢献しました。
加藤 決勝当日のアクシデントだったので、翼もすごく緊張していましたが、試合前、翼が覚悟と責任を持って熱い思いを言葉にしてチーム全員に語りかけ闘ってくれました。本当に頼もしいチームメイトだなと改めて思いました。
多くの試合は8時45分キックオフという異例のレギュレーションの中で行われました。
加藤 それは大会前からわかっていたことです。チームメイトのほとんどが1カ月前ぐらいから早朝5時に起きる習慣をつけて大会に臨んだので、朝の早い時間帯でのゲームにもうまく対応できていました。朝から散歩するなどして体を動かし、大会に入る前から生活のリズムをうまく作れていたので、スムーズに順応できたと思います。暑さに対しても大会前、古賀(聡)監督があえて暑い時間帯にトレーニングを設定し、暑い中でも走れ切れるようなトレーニングを積んできた自負があったので心配することはなかったです。厳しい時間帯でも運動量が落ちることなく闘えたことが勝ち上がりにつながった要因の一つだと思います。
大会をとおして、チームとして成長できたところはどんな点でしょうか?
加藤 これまでも常に選手主体でのチームブリーフィングにこだわってきましたが、今大会はオフ・ザ・ピッチにおいても各々がリーダーとなって周りに働きかけ、チームが一体になれたことがよりレベルアップにつながったと思います。ピッチ内においても、さまざまな厳しい状況に立たされましたが、選手主体で問題解決に努め、壁を乗り越える勝負強さを身につけることができたのはないかと思います。
チームキャプテンとして、チームメイトへの声掛けや意識付けはどのように取り組んだのですか?
加藤 11日間で7試合を闘いましたが、疲労感やモチベーションを維持できなくなる瞬間が必ずあると思っていたので、そういう時こそしっかりと働きかけられるように心掛けていました。ただ、選手個々が強い意識を持って闘い続けてくれたので、そんなに大きなタスクはなかったと感じています。
3年生主体のチームでしたが、下級生の働きぶりはいかがでしたか?
加藤 今シーズンは開幕当初から3年生が覚悟を持って臨む中で、1、2年生が思うように力を発揮できていないと感じていましたが、プレミアリーグWESTが中断した期間、下級生たちがチーム内で3年生を脅かすような成長を見せてくれたことが今大会にもつながったのだと思います。例えば、全試合にフル出場した2年生の宇水聖凌選手や、途中出場でいい働きを見せてくれた1年生の貴田遼河選手、鈴木陽人選手など、彼らは自分のタスクを果たすだけでなく、ピッチを離れても積極的にコミュニケーションを取りながら、自分たちのやるべきことを果たしてくれました。下級生の働きなくして今回の優勝はなかったと思います。
加藤選手は大会MVPに選出されました。名前を呼ばれた時はどんな気持ちでしたか?
加藤 すごくびっくりしました。僕が受賞していいのかなと。プレースタイルもキャラクターも派手なタイプではないですし、今までこういった賞には縁がなかったんですけど、このMVPを自信に変えていきたいと思います。
大会を通じてプレーの手応えや課題は見つかりましたか?
加藤 大会前、吉田温紀選手がトップチームに帯同し、AFCチャンピオンズリーグに参加していたので、僕がボランチからセンターバックにコンバートされ、今大会も全試合でセンターバックとして出場したのですが、吉田選手からいろいろと学んだり、レベルの高いセンターバックを見て研究したりしました。プレーの幅も広がったと感じましたし、自分の強みとして、いろいろなポジションを高いレベルでプレーできるような選手になっていきたいと思います。
ご自身のポジションについてはどのように考えていますか?
加藤 単純に楽しさで言えば、ボランチかなと思います。攻撃に関わる回数も多く、相手ゴールに近いエリアでプレーできますから。ただ、今大会でセンターバックとしてプレーしてみて、ピッチ全体を俯瞰で見られるところや、後ろだからこその声掛けなど、センターバックとしての面白さも感じました。与えられた役割を全うするつもりですが、プロを目指す上ではボランチで勝負したいと考えています。
古賀監督の教えを受け、成長できていると感じる点は?
加藤 U-18に加入した高校1年生の時に古賀監督に出会い、自分のサッカー観をいい意味で否定してもらい、新鮮な気持ちで改めてサッカーに取り組むことができました。1年生の頃はまだ難しかったのですが、2年、3年と時間を重ねるごとに古賀監督の掲げるビジョンにすごく楽しみを見出すようになってきて、自分自身のサッカー観が広がり、サッカーを深く知ることができたのは大きかったと思います。サッカー選手である前に1人の人間としても大きく成長できていると実感しています。
今後もタイトルの懸かった大会が控えています。
加藤 クラブユースでは頂点に立ちましたが、U-18の43人は誰も満足していません。プレミアリーグWESTでは厳しい戦いが続きますし、2年前に成し遂げられなかったプレミアリーグファイナルでの勝利にこだわってやっていきたいと思います。
今大会は無観客で開催されましたが、ライブ配信された映像を観ながら多くの方々が応援していました。そういった皆さんにメッセージをお願いします。
加藤 会場で直接、応援していただきたかったのが正直な気持ちでしたが、映像を通じて優勝をお届けできたことはうれしく思います。応援してくださったグランパスファミリーの方々の声はSNSなどをとおして僕たちにも届いていましたし、すごく励みになりました。新型コロナウイルスの情勢により、今後のシーズンがどのようになっていくのか僕たちにも予想がつきませんが、仮に無観客での試合になったとしても、映像を通じて自分たちの熱いプレーで皆さんに活力を届けていきたいと思います。これからも引き続き、U-18の活動のサポートをよろしくお願いします。